第213回 (旧暦8月21日)
秋ソバの花が見ごろの季節となりました
いま、クルマや鉄道で山村部を通りかかると、
白やうす紅色の花をつけたソバ畑が目に付きます。
ソバは、アジア中〜北部原産のタデ科の1年草で、
日本には古い時代に朝鮮半島を経て移入されており、
桓武天皇の勅によって延歴16年(797年)に撰進された
「続日本紀(しょくにほんぎ)」には、養老6年(722年)の夏、
冷害によって稲が不作だったため、
朝廷がアワ、ムギとともにソバの栽培を奨励していることが
記されていますから、今から1200年以上前からすでに
栽培が行われていたことがわかります。
ソバの実は、糖質73.1%、タンパク質9.7%、脂肪2.5%、と、
コメやムギと比較して遜色のない
高エネルギー食品であるとともに、
ビタミンB1、B2、配糖体のルチンなどが含まれる
優れた健康食品であるばかりか、
種子を播いてから2〜3ヶ月で収穫でき、
かつ、夏と秋の2回にわたって収穫できる重宝な作物ですから、
常にコメの不作に脅かされていた時代の人びとにとっては
まことにアリガタイ食べ物であったに違いありません。
ちなみに、5、6月頃播いて7、8月頃収穫するものを「夏ソバ」、
7、8月に播いて秋に収穫するものを「秋ソバ」と呼びますから、
いま咲いている花は秋ソバの花ということになります。
また、ソバは種子を食用するだけでなく、葉や茎にもルチン、
クエルチトリン、硝酸石灰などが含まれているため、
できものやハレモノに、火で炙った葉を貼りつけたり、
ソバ粉を塩水でこねたものを塗布するなどの民間療法があるほか、
葉や茎を焼いた灰汁(あくじる)を
洗髪や衣類の洗濯に用いるなど、
生活の中でいろいろに利用されてきた歴史があります。
ところで同じタデ科の1年草で他の畦や川べりなど湿った場所に
生えるミゾソバという植物がありますが、
こちらのほうも春〜初秋の頃の柔らかな葉は、
茹でてから和え物、おひたし、煮物、汁の実、油炒めなどで
食用になりますから、夏〜初秋のころの数少ない食用野菜として
利用することをすすめます。
ただし、このミゾソバには、姿かたちがソックリで
葉や茎に鋭いトゲが密生するママコノシリヌグイという
オゾマシイ名前の類似品がありますから、
これには手を出さないようにしましょう。
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ソバ畑 |
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