第206回 (旧暦8月14日)
日本特産の薬用人参
しばらく前に朝鮮人参のことを書いたことがありますが
(7月3日・第146回)、
ちょうど今ごろ、山地の林床では、
赤い実をつけた「朝鮮」ならぬ「和」人参が見られます。
和人参というのは、
朝鮮人参(オタネニンジン)とおなじウコギ科の多年草で、
葉がトチノキの葉に似るところから
標準和名ではトチバニンジンと呼びますが、
これが日本特産の薬用人参にあたります。
ただ、おもしろいことに、
日本特産の野生人参でありながら、
これが薬用されるようになったのは比較的新しく、
江戸時代初期以降のことで、
しかも、それを発見して薬として用いることを始めたのは
日本人ではなくて
何鉄吉という明国からの
亡命帰化人だったという歴史を持っているのです。
何鉄吉が初めてこれを見つけたのは、
彼が亡命帰化した薩摩国(鹿児島県)のことでしたから、
最初は薩摩人参と呼ばれたらしいのですが、
やがて、その噂と効用が全国に広がって
各地で採取利用されるようになり、
その産出地ごとに「吉野人参」「熊本人参」
「日光人参」「島原人参」などと
呼ばれるようになったのでした。
このトチバニンジンは、
中国の「三七(さんしち)人参」や
「田七(でんしち)人参」に近い系統で、
オタネニンジンのように根が直根でなく、
長く横に伸びて竹の節のような結束があるため、
生薬名では「竹節人参(チクセツニンジン)」と呼ばれます。
根にアラロサイドやチクセツサポニンなどを含み、
漢方では、健胃、解熱、咳止め、去痰、
気管支炎、消化不良などに用いますが、
オタネニンジンのように
強壮や強精のはたらきはありません。
仙人は、このトチバニンジンの根茎と果実とを
一緒に漬け込んだトチバニンジン酒を数年前に作り、
以来、風邪のひき始めに
チョビチョビ飲用することにしていますが、
咳などのノドの炎症や解熱には
オタネニンジンよりすぐれた効果を発揮します。
秋の山でトチバニンジンの紅い実を見つけたら、
両手の平1杯分を持ち帰り、
トチバニンジン酒を作ってみませんか。
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トチバニンジン |
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