第192回 (旧暦7月30日)
江戸城大奥御用達の化粧水
今日は、最初にちょっと
頭の体操でもしてもらうことにしましょうか。
長野県のある地方では、ヘチマのことを「トウリ」と呼びますが、
その理由を考えてみてください。
ナンデダロ? ナンデダロ? と、
頭の中で3回繰り返して答えが見つからない人は、
口の中で「イロハニホヘト……」を復唱してみるとよろしい。
そうすると、ネ、わかったでしょ。
「ヘ」と「チ」のマ(間)は「ト」なのですよ。
つまり、「へ」と「チ」の間のウリ、というわけですナ。
マア、それはさておき、仙人が子供のころには、
夏になるとどの家でもヘチマ棚が作られ、
夏の終わりごろになると大きなヘチマが
たくさんぶら下がっている姿を見られたものですが、
近ごろではそんな光景をトンと目にしなくなってしまいました。
ヘチマは、熱帯アジア原産のウリ科の1年草で、
日本ではもっぱら果実の繊維を
「ヘチマだわし」として利用しますが、
原産地域や中国では若い果実を好んで食用する習慣があります。
日本に移入されたのは意外に新しく、17世紀初頭のころで、
最初のうちはやはり漬け物や汁の実などで
食用にされたようですが、
江戸時代中期になると遠州(静岡県)を中心に
ヘチマだわしの生産が盛んになっています。
また、江戸時代後期の文政年間(1818〜1830年)の記録によれば、
江戸城大奥の女性達にはヘチマのつる茎からとった
「ヘチマ水(糸瓜水)」が化粧水として人気があったようで、
毎年、小石川の御薬園から1石1斗3升(約198L)のヘチマ水が
大奥に納められていたそうです。
このヘチマ水には、硝酸カリウムやサポニンが含まれていて、
肌を滑らかにしたり咳止め、利尿などの効果があるため、
肌荒れやひびなどに外用したり、
痰や咳止めのうがい薬としたりするほか、
脚気(かっけ)などの水腫症の利尿薬として
砂糖を加えて煮つめたヘチマ水を服用するなど、
民間では広く利用されてきました。
ヘチマ水のとり方は、茎を根元から30〜50cm上で切り、
根の方の茎先を1升びんに差し込んで口元に綿栓をしておくと、
1本の茎から1日半か2日で
1.2〜1.8Lほどのヘチマ水がとれますから、
ヘチマを植えている人はぜひ試してみてください。
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ヘチマ |
ヘチマのタワシ |
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