第190回 (旧暦7月28日)
「花炭」って知っていますか?
この夏、仙人はセッセと花炭(はなずみ)を焼いていました。
花炭というのは、自然の草木をその姿のまま炭に焼いたもので
「飾炭(かざりずみ)」のひとつです。
つまり、バラの花でもホオズキでも、
自然に咲いているものを切り採って
その形のまま炭化させたものだと考えてもらえれば
判りやすいと思います。
炭は、日本伝統の燃料として古くから
われわれの生活を支えてきましたが、
昭和30年代半ばころから石油燃料にとって替わられ、
それ以来、衰退の一途を歩んできました。
ところが、産業の発展にともなって環境の悪化や公害などが
大きな社会問題となり、最近では再び
炭の効用が見直されるようになってきたのです。
ただし、それは、炭本来の機能である「燃料」としてではなく、
炭が備え持っている浄化作用や防臭作用などが新たに注目され、
環境改善の目的で注目されることになったのでした。
一方、飾り炭のほうも、茶道の世界では古くから
「枝炭(えだずみ)」と呼んで
茶席で観賞されてきた歴史がありますが、
炭そのものの退潮現象にともない、
それを焼く人が少なくなったこともあって、
やはり姿を消しつつあったのです。
もっとも、以前の枝炭は、技術的にもあまり精巧なものではなく、
ただ枝先を炭にした程度のもので、
茶会では、これを観賞した後、
茶を立てる湯を沸かすための炭火を起す
種火(たねび)として用いられていました。
これに対して、仙人が取り組んでいる現在の花炭は、
枝だけでなく、花も実も葉っぱも、
自然の姿のまま炭に仕上げるため、
むかしの枝炭とは比較にならない精緻なもので、
室内の装品としても十分に耐えられるものです。
しかも、この繊細な花炭も、
やはり「炭」であることに変わりはなく、
炭が持っている浄化や消臭などの作用を備えていますから、
いってみれば「炭の効果を備え持った装飾品」
ということになるでしょうか。
これからはドングリなどいろいろな木の実の季節を迎えるため、
どうやら仙人の花炭作りはまだしばらく終わりそうにありません。
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松の盆栽をそのまま炭に焼いた花炭 |
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