第178回 (旧暦7月7日)
クレオパトラのキノコ
日本には、むかしから「色の派手なキノコは毒キノコ」という
俚言があるせいか、紅や黄色のキノコには
手を出さない習慣があり、今でも多くの地方では
それがアタリマエのこととして
受けとめられているフシがあります。
黄色の地に朱色のだんだら模様をあしらった長い柄の上に
真紅の傘を開かせるタマゴタケなどは、その際たるもので、
毒キノコと思われてか、足で踏み潰されている姿を
どこへ行っても目にします。
ところがドッコイ、このタマゴタケというキノコは、
三ツ星級の優れた食菌で、
ちょいとオリーブオイルで炒めてやると、
高級なチーズのような香りとコクのあるうまみが出て、
とりわけスパゲッティに仕立てると、
すこぶるつきのスグレモノになるのです。
実は、このキノコはヨーロッパにもあって、
学名を「アマニタ・カエサリア」
つまり「カエサルのキノコ」と呼ぶのですが、
カエサルというのはローマ皇帝シーザーのことですから、
いってみれば「皇帝のキノコ」という意味にほかなりません。
それはさて、わが日本のタマゴタケも、
最初のうちはヨーロッパのタマゴタケである
「皇帝のキノコ」と同一の種だとされてきたのですが、
近年になって、どうやら別の種であるらしいと同定され、
今では「アマニタ・ヘミバファ」すなわち
「半着色のキノコ」というヘンテコリンな学名を
頂戴することになってしまったのです。
ヨーロッパのキノコ図鑑を開いて見較べてみると、
どうやら「半着色」の方にある柄のダンダラ模様が
「皇帝様」の方には見られないのが別種とされた原因で、
学名の「半着色」というのも、
このダンダラ模様のことを差しているに違いありません。
しかし、仙人の感性によれば、この微妙なダンダラ模様は、
女王様の胸飾りかドレスの飾り襞のようなものですから、
「シーザー」と別種に扱うこと自体はヨシとしても、
どうせならシーザーの心を惑わせたエジプト女王に因み
「アマニタ・クレオパトラ」とでもするべきだったように
思うのですが、いかがでしょうか。
ちなみに、この「クレオパトラ」のほうは
雑木林を覗くともう顔を出していますから、
真っ紅なキノコを見つけたらシミジミ観察してみてください。
|
タマゴダケ |
|