第171回 (旧暦6月29日)
暑さを忘れる「山伏食」
今年の梅雨は少し長引きましたが、
どうやら梅雨明け宣言が聴かれるのも
時間の問題となってきたようです。
梅雨が明ければ猛暑の夏。そこで今日は、
夏の暑さを忘れる仙人食ならぬ
「山伏食」でも紹介しておくことにしましょうか。
山伏というのは、仏道修行のために
山野に起臥(きふく)する修験僧で、
道教にいう仙人とはいささか相違はありますが、
この山嶽修験道の始祖といわれる役行者(えんのぎょうじゃ)は、
日本の仙人列伝に名を加える人物であったことを思うと、
マア、現代人からすれば、
仙人も山伏もほとんど区別がつかないのではないでしょうか。
さて、その山伏といえば、
山嶽修験の霊場として知られる山形県羽黒山一帯には、
行にのぞむ山伏達の間で
「ダケノリ(岳海苔)」「キブノリ(木生海苔)」と呼ばれ
今日でも食用されている山伏食があります。
ダケノリもキブノリも、
地衣植物(菌類と藻類とが共生体をなす植物)で、
学術的に検証すると、
ダケノリはホソバエイランタイ(細葉依蘭苔)、
キブノリのほうはヨコワサルオガセ(横輪猿麻)が正体です。
エイランタイは、北半球の寒帯および高山地に広く分布し、
北欧地方では古くから健胃用の民間薬や
食用に利用されてきた歴史があり、
日本では高山の森林限界より上のハイマツ帯に分布し、
本種のほかにもマキバエイランタイ、
ウスキエイランタイなどがあります。
一方のサルオガセは、日本に42種類が分布しますが、
通常サルオガセと呼ぶときは、
上記のヨコワサルオガセとナガサルオガセを差すことが多く、
ともにブナ、ミズナラ、コメツガ、シラベ、カラマツなどの
樹幹から下垂し、
前者では30〜100cm、後者では長いものだと数mに伸張します。
ヨコワサルオガセ、ナガサルオカセともウスニン酸などの
酸塁を含み、漢方では「松蘿(しょうら)」と呼んで、
古くから咳止めや結核の薬として利用されてきました。
食べ方は、ダケノリもキブノリも繊維質のため、
塩ひとつまみ加えた熱湯で茹でてから、
酢味噌やゴマ味噌で和えて食しますが、
特別きわだった味はないものの、
山伏食にしてはナゼカ酒の肴にピッタリなのが
ケッコウでありますナ。
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山伏食で「木生のり」と呼ばれる
サルオガセ(ヨコワサルオガセ) |
山伏食で「岳のり」と呼ばれる
エイランタイ(ホソバエイランタイ)
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