第168回 (旧暦6月26日)
飢饉を救ったオジャマ草
この20年程前から鎌倉海岸の砂浜が少しずつ狭くなっています。
その主な原因は、テトラポットの波よけが何本か築かれていて、
砂浜の砂が波よけの間に堆積して
浜に還流しなくなったことにあります。
そのため、海水浴のための海の家を建てるのに、
10年ばかり前からは大量の土を海岸に入れ、
その上に建設するようになったのです。
仙人はそれを見て、海岸の植生が
少しずつ変わってくるのではないかと思っていましたが、
案の定、以前はハマヒルガオが群生していた場所に
今ではスベリヒユがはびこるようになってきました。
スベリヒユというのは、繁殖力の旺盛な1年草で、
畑地であれ、荒れ地であれ、庭地であれ、
日なたでさえあればどこにでもはびこり、
一般にはオジャマ草扱いを受けていますが、
マサカ海岸の砂浜にまで進出してこようとは
仙人も気が付きませんでした。
それはさて、このスベリヒユは、
飢饉の折の救荒食として利用された歴史があり、
今でも東北地方の一部では「ヒョウナ」と呼んで
これを食用する地域が見られます。
食べ方は、塩ひとつまみ加えた熱湯で茹でてから
(干したものは水で戻してから)、おひたしや和え物にしますが、
特有のヌメリがあって、食味はナカナカのものですゾ。
一方、中国や東南アジア諸国では、食用というよりも、
むしろ薬用として多用されており、
これを乾燥したものが薬店や市場などで売られています。
効用は、主として虫毒や蛇毒などの解毒に用いますが、
漢方では花期の全草を乾燥したものを
「馬歯(ばしけん)」とよび、
細菌性の下痢の治療や膀胱炎などにも用いられます。
また、日本でも、虫刺されの痛みやカユミに
生葉(生茎も)の汁を塗布したり、
淋病に馬歯を飲用したりするほか、
痔疾に煎液で洗浄する、などの民間療法があります。
ただし、動物実験では子宮の収縮作用が認められていますから、
妊婦は流産の危険があるため
食用・薬用ともひかえたほうが無難でしょう。
なお、スベリヒユは、葉も茎も多肉質のため、
乾燥させる時は一度蒸してから干すと早く乾燥します。
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スベリヒユ |
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