第125回 (旧暦5月13日)
仙人流「三本の矢」
今日は、1週間ぶりに
仙人流歩行術の話を続けることにしましょうか。
野山を歩いていて、ちょっと急な坂道などに出くわすと、
手近なところに生えている木の枝や草を把み、
それを手がかりとして利用する人が少なくありません。
森や林が多い日本の自然を歩きまわるには、
この「木や草を手掛かりとして利用する」ということも
大切な技術のひとつではあるのですが、
実は、「ただ木や草を把むだけ」というその単純なことも、
アウトドアの現場ではウッカリすると
生命の危険にかかわる要素を含んでいますから、
決してオロソカにすべきではないのです。
木や草を手掛かりにしなければならない状況というのは、
それ以外に手掛かりにできるものがない状態であるのは
当然として、同時に、傾斜が急で
足場の不安定な場所であることがほとんどのはず。
こうした場所というのは、雨や雪崩などによって
絶えず地表層が洗い流されているために、木や草とはいっても、
根の浅い一年草や幼木しか見られないのがふつうです。
ということは、こうした場所で手掛かりとして利用する植物は、
その一木一草では50kg、60kg、70kgという人間の体重をささえる
力を持っていないということにほかなりません。
そこで、こんなときは、あの毛利元就サンの
「三本の矢」を思い出してみることですナ。
つまり、1本の矢は折れやすいが3本束ねれば折れにくい、
という例のヤツですが、これと同じで、
1本の木や草では支えられなくとも、
3本束ねて把めば
やはり体重を支えることができるようになりますから、
木の枝や草を支点として利用する場合は、
必ず3本くらい束ねて把むようにする習慣を
身に付けておくことが大切です。
ただし、3本束ねる場合でも、
折れたりちぎれたりしやすい先端部分では
ほとんど意味がありませんから、
図のように、草ならば根元の部分を把み、
しかも、上や横に引っ張るのではなく、
地面に押し込むような感じで
静かに力を加えてやるのがベターです。
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