第117回 (旧暦5月5日)
発芽によってコメの貯蔵栄養素は母乳化する
昨日は、発芽をすると
コメに含まれているタンパク質はアミノ酸化し、
脂肪は脂肪酸化するために、
タンパク質や脂肪の場合も消化吸収効率がグンと向上する、
という話をしましたから、
今日は、発芽によって
ナゼこのような変化がコメの内部で起こるのか、
その理由について考えてみることにしましょう。
これまで度々述べてきたように、
コメ(玄米)はイネという植物の種子であり、
新しい生命を誕生させるための栄養貯蔵庫です。
そして、この栄養貯蔵庫は、
ただ栄養成分を貯蔵しているだけでなく、
その一端に「胚芽」という組織を持っています。
この「胚芽」という組織は、
新しい芽を育むための器官ですから、
哺乳動物でいえば子宮のような役割をする器官だといって
さしつかえありません。
そうすると、こういうことになるのではないでしょうか。
われわれ人間の場合でも、子宮の中に宿った幼い生命には、
自分ででんぷんをブドウ糖化したり、
タンパク質をアミノ酸化したりするような能力が
まだ備わっておりません。
そのため、発育のためのエネルギーとして
母体で創られたブドウ糖やアミノ酸などが
臍帯(さいたい)を通って
子宮の内部の幼い命に送り込まれているのです。
実は、これは植物でもおなじことで、
新しい芽が生まれ育つためには、
そのエネルギーとなる栄養素は、より小さな分子の、
もっとも吸収しやすいかたちでなければなりません。
そのために、発芽の準備が始まると、
発芽のために蓄えられていた「でんぷん」は「ブドウ糖」に、
「タンパク質」は「アミノ酸に」、というように分解されて
胚芽部に送り込まれていくのです。
つまり、多少の誤解を承知で言えば、
発芽の開始とともにコメの内部に貯蔵されていた栄養素は
「母乳化」された状態で胚芽に送られていく、
と考えればよいのではないでしょうか。
植物と動物とでは、形態も生態も大きく異なりますが、
種の保存というもっとも基本的な部分でのしくみや
システムに関しては、それほど大きな違いはないのです。
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