第78回 (旧暦3月18日)
ノビルの活用法
仙人が幼少年期を過ごした時代には、
身近な草花や木の実が子供たちにとって
手ごろな「おやつ」であり「おもちゃ」でもありました。
おそらく仙人と同世代の人たちなら、
学校の帰りみちにクワの実やキイチゴの実を摘んで食べたり、
カラスノエンドウのサヤ笛や
オシロイバナの花笛を吹きながら歩いたような経験を
きっと持っているにちがいありません。
そして、女の子であれば、
レンゲやシロツメクサの花で花カンムリを編んだり、
スイバやギシギシの葉を折り重ねて
「お姫様」を作ったりして遊んだはずです。
ノビルもそうした草花あそびの材料のひとつで、
仙人にも三歳下の妹に写真のような
「おくるみ人形」を作ってやった思い出があります。
これは、ツバキなどの葉を巻いて「おくるみ」を作り、
その中に目鼻をつけたノビルの鱗茎を差し込んだものですが、
ツバキのほかムベやカシの葉など
手ごろな葉っぱであればなんでも利用できます。
さて、このノビルという野草は、
『古事記』にも登場する日本古来の食草で、
生の鱗茎に味噌をつけて食べたり、
粥や雑炊、あえ物などに用いるほか、
葉は薬味としても利用でき、
秋田地方では「サシビル」と呼んで
郷土料理の「しょっつる」にこのノビルを使います。
仙人はギョウザなどにニラの代わりとしてこれを使いますが、
味も香りもニラより数段勝り、客にも好評ですゾ。
また、中国ではノビルを「薤白(がいはく)」
または「小根蒜(しょうこんさん)」と呼び、
食用でなくもっぱら強精や健胃の薬草として
利用されてきた歴史があります。
日本でも、のどの痛みやはれ物に
葉と鱗茎をすり潰した汁で湿布したり、
咳止めに鱗茎のしぼり汁を飲用したりする
民間療法がありますが、
仙人の場合には、野山で虫に刺されたようなとき、
ノビルを抜いて鱗茎を潰し、その汁を患部に塗ってやるのです。
そうするとかゆみがピタリとおさまりますから、
憶えておくとヨロシイ。
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ノビルのおくるみ人形。
左はムベの葉、右はツバキの葉 |
ノビル |
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