蓬莱仙人・大海淳さんの
身体にいい話

第66回 (旧暦3月6日)
露と消えつつあるキノコ

山菜でもキノコでもそうですが、
最近はどこへ行っても「昔はいくらでも採れたのに、
近ごろはゼンゼン採れなくなった」という話を
地元の人たちから必ず聴かされます。

これは、日本の自然環境がそれだけ荒廃したという
証拠でもあるのですが、
なかにはわれわれの生活様式が変化したことによって
衰退を余儀なくされたものも少なくありません。
その典型のひとつと言えるのが、
海辺のクロ松林に発生する
ショウロ(松露)という美味なキノコです。
ショウロは、ピンポン球ぐらいの大きさの
卵形〜扁球形をした半地中性のキノコで、
ちょうど今ごろの季節に海辺の若い松林の林床に発生しますが、
日本の産業構造と生活様式の変革に伴ってしだいに衰微し、
近年ではめっきり少なくなってしまいました。

その最大の原因は、松林に人の手が入らなくなり、
林床が荒れるに任されてしまうようになったためです。
昭和30年代半ばあたりまでは、
松林に堆積する松の落葉は
近隣住民にとって肥料や燃料として貴重な自然資源であり、
常時松林に入って落葉を掻き集めていたのですが、
炭や薪に替わって石油に、
落葉などの有機肥料に替わって化学肥料にと転換して以来、
誰も落葉掻きをしなくなってしまいました。
つまり、これによって松林の林床は富栄養化が進み、
他のカビや細菌類の温床と化して、
ショウロはその棲み家を失うことになったというわけですナ。

ちなみに、このショウロというキノコは、
上品な風味で古くから
一級の椀種として重用されてきたばかりでなく、
ビタミンB2(リボフラビン)を酵母並に含有する
栄養的にもすぐれたキノコです。
仙人も、毎年今ごろの季節になると、
これを求めて三つばかりある
自分のハタケを順ぐりに回るのですが、
ご多分にもれず仙人のハタケでも
年々その収穫量は減少しており、
近い将来「幻のキノコ」になってしまうのではないかと
危惧しておりますのじゃヨ。

海辺のマツ林に出るショウロ

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