第64回 (旧暦3月4日)
「忘れ草」を忘れるな
忘れ草 吾が紐につく 時となく
思ひわたれば 生けりともなし (『万葉集』巻十二 3060)
いま、鎌倉の野では『万葉集』に「忘れ草」として謡われた
ヤブカンゾウの新芽がいっせいに萌えたっています。
ヤブカンゾウは、中国原産のユリ科の多年草で、
中国料理に使われる金針菜は
この花のつぼみを蒸して乾燥させたもの。
花のほか若葉も食用になり、甘味があってオイシイところから
「これを食べると憂いを忘れる」という意味で
「和名抄(932年)」では「忘憂(ぼうゆう)」
という名で紹介されています。
つまり、古い時代から身近なすぐれた食草として
利用されてきたということですが、
自然が失われた都市部ではその姿もめっきり少なくなり、
こうした歴史も味もしだいに忘れられて、
ホントウの「忘れ草」になりかけているのかもしれませんナ。
しかし、花は金針菜以外にも酢の物やテンプラで、
若葉は和え物、おひたし、煮物、汁の実、炒め物などで
楽しめるほか、花にはヒドロオキシグルタミン酸などが
含まれていて利尿や膀胱炎などの薬草としても
利用できますから、こういう食薬兼用のスグレモノの
存在を忘れてしまうのはなんともモッタイナイではありませんか。
ちなみに仙人は、花や若葉を食べるだけでなく、
花のつぼみをホワイトリカーに漬け込んで
花酒も作っておりますゾ。
作り方は、7〜8月に花のつぼみを摘み、
洗わずそのままホワイトリカーに漬け
(酒1.8Lに対して花0.8L、氷砂糖100g)
冷暗所で3か月ほど寝かせますが、
花は1週間で取り出しておきます。
この花酒は、さわやかな黄橙色に熟成し、
新陳代謝の促進や疲労回復、美容などに効用がありますから、
機会に恵まれたら試してみるとヨロシイ。
また、ノカンゾウやハマカンゾウ、ゼンテイカ(ニッコウキスゲ)
などもこのなかまで、いすれも同様に利用できます。
|
|
ヤブカンゾウの芽 |
ヤブカンゾウの花 |
|