第43回 (旧暦2月13日)
仙人の履き物
3月15日は「靴の記念日」だそうですから、
今日は履き物についての話です。
最近、日本の山はどこへ行っても
「おじさん・おばさんウォーカー」の姿がやたらと目立ちます。
野山を歩くのは健康的で、
そのこと自体は大変ケッコウなことではあるのですが、
仙人は彼らの足元を見て、
ときどき「オヤ、まあ」という気分にさせられます。
それは、彼らのほとんどが硬質ゴム底の靴を
お召しになっていらっしゃるからですネ。
こうした硬いゴム底の頑丈な靴は、
もともとは岩や氷雪に被われた
ヨーロッパ・アルプスで生まれたもので、
そうしたハードなフィールドで活動するには、
このような頑丈な靴がおおいに有効であることはたしかです。
しかし、日本の山は90%以上が森林に被われていますから、
こういう自然の中を硬い底の靴で歩きまわるのは、
決してカシコイことではないのです。
なぜかといえば、硬い靴で森や林の中を歩きまわる、
その林床植物に大きな損傷を与えることになりますし、
だいいち頑丈な靴だと必ず歩き方がザツになるもので、
いつまでたっても「上手な歩き方」が身に付きません。
それなら仙人はどんな靴を履くかといえば、
あの昔なつかしい地下足袋を履くのですナ。
地下足袋というやつは、裏底のゴムが軟質で薄いため、
地面の変化がストレートに足の裏に伝わって、
無駄のない理想的な歩行術が身につくばかりでなく、
苔や草花を踏んづけても
ほとんどダメージを与えずにすむという、
大変スグレタ履物なのです。
地球上の多くの民族は、その民族特有の履物を持っていますが、
それらはすべて、それぞれの風土に合った履物でした。
その意味で、地下足袋やワラジという履物は、
森林の発達した日本の風土に適応して生まれた
民族シューズであり、それゆえに農業・林業などの
日本の自然の中ではたらく多くの人たちに
長いあいだ愛用されてきたのです。
靴の日にちなみ、たまには自分が履いている靴と
風土(自然環境)ということを考えてみてはいかがでしょうか。
日本の風土に適応して生まれた履物「地下足袋」
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