第30回 (旧暦1月30日)
民間療法の落とし穴
仙人が住む鎌倉地方では、
ぼつぼつスイセンの花が終期を迎えます。
東北地方南部一帯では、
このスイセンの鱗茎(球根)をすり下ろして小麦粉と混ぜ、
はれものや肩こり、歯痛、乳腺炎などに外用する
民間療法が古くから行われてきましたが、
スイセンのような毒草を扱うときは、
外用とはいえくれぐれも注意しなければいけません。
スイセンの鱗茎に多く含まれる
リコリンという痙攣(けいれん)性の毒成分は、
ウサギを使った実験では体重1kgあたり
最小致死量0.05gという強いもので、
単純計算では体重50kgの人なら
純粋成分2.5gで死亡する危険性があることになるのです。
スイセンの球根(鱗茎)は小形のタマネギとよく似ていて、
うっかり台所の角などに置いておくと、
そそっかしい人はタマネギと間違えて
料理に使うことになりかねず、
実際にこうした誤食例がしばしば起っていますから、
幼児や老人、視力の弱い人などがいる家庭では、
うかつにスイセンの球根を身辺に置かないことをすすめます。
実は、こうした民間療法が盛んであった地方や時代には、
それを利用する人たちがこうした知識を持っていたために
不測の誤食事故を防いでこれたのですが、
植物に対する知識が欠乏した近年の人たちが、
聴きかじりの民間療法に手を出すと、
思わぬ落とし穴に陥ることになりかねませんから、
民間療法とはいえ毒草には決して手を出さないことです。
ちなみに、スイセンは葉や花に触ったり顔を近付けたりすると、
皮ふの敏感な人は湿疹などの皮ふ炎症を引き起こすことが
あることもついでに覚えておくといいでしょう。
また、ラッパズイセンや黄スイセンなど
スイセンの名が付くものはすべて有毒ですし、
これと同じヒガンバナ科のハマユウ、キツネノカミソリ、
ヒガンバナ、ナツズイセンなども
ガランタミンというアルカロイドを含む有毒物質です。
スイセン
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