元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第2084回
ガンが執筆動機をうながした!

拙著近刊「大逆事件異聞=
大正霊戦記=沖野岩三郎伝
」を
若い世代も読んでくれたという話の続きです。

おいおい! ガンの患者が「大逆」だの、
「逮捕」だの「絞首刑」だのといった物騒な事件を
取材したり書いたりしていたら、
ストレスがかかりすぎて体によくないじゃないか? 
と呆れる人もいるでしょう。

でも、嬉しかったのは、ガン治療の後遺症で
うんうん唸って苦しむ生活ではなく、
70歳を前にして自分のライフワークのような仕事が少しでも
納得できるようなかたちで出来たことです。
ありがたいことでした。

魂の闘いに燃える主人公たちの心情を
多くの資料から読み込み、
その無念の涙と希望のトキメキを
わが心魂で受け止めつつ原稿に書き記しているうちに、
ふつふつと僕自身の「いのちのエネルギー」が
高まってきてカラダの調子も戻ってきたのは
ほんとうに嬉しいことでした。

前に触れましたが、きっと、胃に出来た潰瘍とは
「日々の養生をおろそかにしてはいけませんよ」という、
天上の神さまからの警告であったのかもしれませんが、
むしろ、生を賭して闘った
運命的な人たちの記録を残すという運命的な契機を、
きっと天命が与えてくれたのかも知れないと前向きに考えました。
100年前の主人公たちの魂のたかぶり、
心のときめきが僕自身に共感(エンパシー)して、
「いのちのエネルギー」を
高めるパワーをもたらして
くれたのではないでしょうか?

もちろん、若くて人生の苦労もいのちの苦痛も、
まだ経験も浅い時期でしたら、
大逆事件を「大正霊戦記」といった視点では
書くことができなかったでしょう。
僕自身がガンという生死の際を覗き見てしまったからこそ、
暗黒のベールに包まれた謎多き処刑事件を、
単なる政治思想や社会運動の事件としてではなく
「日本人の魂の宿命的な葛藤劇」として
捕らえることが出来たわけです。
また、近代日本史といいますと、
研究の視点が、ただの事象発掘史や
体制追認史に偏しがちですが、
この世界秩序の大変革期にこそ
民衆の精神のあり方を問う
「心性史」(l'histoire des mentalits)の視点が
見直されるべき時代だと思います。

主人公の作家・沖野岩三郎は
100年前の大逆事件以降の日本の歴史を、
日本人の魂の「宿命」と「自由」の相克と捉え、
その運命的軌跡を後世に伝えることが、
自らを「魂の秘密伝道師」
「いのちの宿命作家」の役割と自覚しつつ、
200冊近い小説、随筆、評伝、童話を
書き残して80歳の生涯を閉じました。
まさに、近代日本の民衆の精神のあり方を問う
「心性史」の中に位置する人でした。

そして、いま故郷・和歌山県日高川町寒川には
顕彰の歌碑が建てられ、
自作の処世訓が刻まれています。
続きは、また明日。


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2008年5月11日(日)

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