元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第2083回
なぜいま近代「心性史」を知るべきか?

いま発売中の拙著「大逆事件異聞=
大正霊戦記=沖野岩三郎伝
」の
僕の執筆動機の話の続きです。
それには二つありました。
●一つは、沖野岩三郎という人物が
軍閥政府による言論封殺の弾圧にもめげず、
たった一人、暗黒裁判の冤罪性を告発し続けた
稀有な作家であったという「事実」であり、
●もう一つは、非戦、自由、平等の日本の民主主義が
突然、太平洋戦争の敗戦によってもたらされたとする
近代史観への「疑問」・・・です。

そのため、記号論風にいいますと
「大正霊戦記」というタイトルを選び、
切り口としては「国権メスメリズム」(心霊催眠術主義)と
「能動シネルギズム」(協働神化論)という、
ふたつの「いのち」のキーワードを使いながら、
日本と日本人の精神性の謎=「心性史」を
解き明かそうとしたことになります。

「大正霊戦記」などというタイトルを見て、
オカルトまがいの歴史読み物と
勘違いする人もいるかもしれませんが、
もし、僕の密やかな製作意図を
頭の片隅にいれて読んでいただければ、
この評伝がただの昔話や歴史評伝ではなく、
「日本と日本人の精神性」に問題を突きつける
今日的な課題を秘めたものだということがわかるはずです。

ま、読書に余計な屁理屈は禁物ですが、
この世界秩序の大変革期にこそ歴史探求は
フランス・アナール学派の方法論に見習って、
民衆の精神のあり方を問う
「心性史」(l'histoire des mentalits)
の視点が見直されるべき時代だと思います。

たしかに大逆事件は近代国家の屋台骨を
揺さぶるテロまがいの出来事なのですが、
その凄惨な表相だけに目を奪われてはなりません。
僕はかなりの文献を調べながら、
この本に登場する主人公たちの
「真の自由国建設」への「魂の高揚」が、
いかにロマンに満ち、純朴で志の高いものであるか? 
ここに感動しました。

処刑された幸徳秋水や大石誠之助ら
過激に社会改革を叫ぶ当時の進歩主義者にしても
心底には空想にも似た
ユートピア思想が燃えたぎっていましたし、
奇跡的に生き残って事件の真相をペンで告発し続けた
クリスチャン作家の沖野岩三郎は、
国権催眠に屈することなく、
その度重なる運命的な災難を
「魂の進化」によって凌駕しようとする
近代文学史では珍しい「スピリチャルな作家」でありました。

今なお、この暗黒事件に触れることは
タブー視されており、
むろん、空前の冤罪裁判として
指弾さるべき性質の事例ですが、
その裏には日本と日本人が背負っている
「いかに生きるべきか」「いかに国を作るべきか」という
「生存と心性」の宿命的な命題を
いまの時代にも投げ続けているわけです。
そう思いつつペンを走らせましたから、
僕自身、かなり心ときめきながら
「大正霊戦記」という350ページの
本を書き上げてしまったことになります。

興味のある方は、別掲のガイドを見て
問い合わせるなり、購入してみるなりしてください。


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2008年5月10日(土)

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