元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第1480回
QOL医療とQOL医術の違い

前回、勇気ある医師・土屋繁裕医師の1周忌を偲んで、
奥さんが「いのちの手帖」第2号に寄稿された、
エッセイの一部を紹介させていただきましたが、
土屋先生は、まさに
「患者の味方=患者の寂しさが分かる医師」でした。
「患者のQOL(いのちの質)を治療の第一に考える医師」でした。
その姿は、奥さんの広見さんの筆でたんたんと綴られています。

最近では、医療界の流行語のように、
「QOLを大切にする治療」が、大学病院の医師たちからも
声高に叫ばれるようになりました。
QOLとは、Quality of Life の略で、
「いのちの質」「生活の質」「人生の質」などと訳されます。
人が人として有意義に生きるにはどうしたらよいか、
というテーマ全般を指しています。
これは患者と家族にとって、とても有難いことなのですが、
よく聞いていると、どうも、土屋先生の言うような、
「いのちの質」を大事にしよう・・という考え方からは
まだまだ遅れているような気がします。

多くのブラックジャックと呼ばれる外科医の考えるQOLとは、
どうも「手術を軽く済ます」ことだけに
視点が傾いているように思えてなりません。
先日も、ある消化器系の外科医のQOLの講演を聴いたのですが、
「直腸ガンの手術も、まわりのリンパ節まで切ると
自律神経を損傷し、排尿障害や勃起不全を起こしかねません。
人工肛門の技術も進歩してきましたが、
出来ることなら避けたいものです。
ですから、手術の前に放射線や抗ガン剤で、
リンパ節転移を防ぎ、
さらに直腸の腫瘍を小さくしてから手術をする・・・
これがQOLを大事にした治療です」と、自慢げに話していました。
最近は、こうした例ばかりか、
王監督の胃ガン手術ではありませんが、腹腔鏡手術、
内視鏡手術も盛んになり、これぞ、体に負担をかけない
QOL治療だというわけです。

たしかに患者にとって朗報なのですが、
よくよく聞いていれば分かるとおり、
多くの医師が唱えるQOL治療とは、
何が何でも「手術」をするために編み出される
「QOL医術」の話なのです。
術後の患者の人生ややがて現れる
再発・転移や合併症・副作用で苦しみ、
患者の人生丸ごとのQOL(生活の質)には、
なんの治療もアフターケアもしない例が多いのです。

僕にしても、8年前に、6センチの食道ガンの腫瘍を
切り取るために、放射線と抗がん剤を併用する、
いわゆる「集学的治療」がQOL治療だとして受けたわけですが、
手術は避けたものの、抗がん剤と放射線の疼痛はもちろん、
副作用、後遺症は、人生観を破壊するほどひどいものでした。

これが、美辞麗句を並べた大学病院で常識とされるQOL治療で、、
ただ手術を目的としただけの、
治療サイドのつごうによる「QOL医術」なのです。

このコラムを読んでいる人ならば、お分かりでしょうが、
ガンのような突発性老化病は、
切ったり、焼いたり、叩いたりするだけでは、
完治することはない、いわば長い長い生活習慣病です。
ですから、こうした応急治療のほかに、
さらに、日ごろからの食事や呼吸法などによる養生、
また、未来に希望をもたらすようなよい環境場に、
わが心身をおく、ホリスティックな発想が大切なわけです。
患者は壊れた機械ではありません。
人間丸ごとを診る医療がこそ、
QOL(いのちの質)を守る医療なのです。
ずばり、QOLの分かる医師とは、
手術負担を軽減することに専念する医師ではなく、
「患者の寂しさが分かる医師」です。
こうしたタイプの医師が「患者の味方」だと、
土屋医師は提唱し実践して、多くの患者さん、家族のみなさんと、
まるで「家族」のように接してきた医師でした。

土屋医師が急逝されてから1年――、
患者にとっての「本当のQOL(いのちの質)とは」何か?
天国から、僕たちに教えてくれているようでなりません。


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2006年9月15日(金)

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