第1118回
短絡思考という「バカの鏡」
「手と脳の相互作用」で
人類は、今日の英知をつかんだ――
「手の五〇〇万年史」という、
ちょっと読みごたえのある
新刊の研究書を紹介してきましたが、
ちょっと「手」ごわい、
難解な諸学説もありますが、
当世の「バカの鏡」ならぬ、低劣な本や雑誌、
そして、テレビ番組が氾濫する世の中では、
読了後は、
読みごたえ、いや「手」ごたえのある
満足感に浸ることができました。
とくに、数百万年に渡る、
「手」(腕や肩を含む)の骨筋肉の進化が、
言語を生み、文化を発展させたという指摘は、
ともすれば、人文、社会、自然科学のあらゆる分野で、
一元論思考に安住しがちな、
多くの学者にだけでなく、
脳科学や古考古学、生物学の専門的学説に
不案内な一般読者にも、
思考回路への多くの刺激的な示唆をもたらすものでしょう。
少し、話を現代的な課題と
オーバーラップさせておきましょう。
いま、日本が、世界が、
いや人類全体が、
旧来の一元論思考の限界に気づき、
僕たちの周辺=
生活、社会、政治、経済、教育、メディアの分野で
「多元論からの再思考構築」
の時代を迎えているのではないか?
いまはやりの「バカの壁」といった、
脳科学からの流行語を借用させてもらえば、
本書は「短絡的な一元論」に
警鐘を鳴らすものだと思います。
ここに「手―500万年」のような示唆的な本が
これからは、
興味深く迎えられる予兆があるのではないか?
いま、あらゆる分野で、
習慣化、単純化した一元論思考=短絡思考が、
日本では蔓延しています。
情報が錯綜すればするほど、
ちょいと、欧米の論理マニュアルを寸借して、
物事を「短絡化させれば正論である」とする傾向が、
とくに政治やメディアの世界で氾濫しています。
たとえば、ちょっとまえにも、
小泉流「短絡化」選挙とやらが注目を集め、
多くメディアが追従しました。
しかし、外交の舞台でも、
一国至上主義の米国に批判の手が上がってきております。
僕が、いつも、このコラムで主張している、
医学の分野でも、
西洋医学一辺倒の治療の限界が見えてきて、
多元的治療、つまり、
中国医学、伝統療法を組み合わせた、
ガンの統合医療=いのちの医療が見直されています。
ちょっと、話が飛躍するかも知れませんが、
新刊「手―500万年」を
「多元論からの再出発」という視点でじっくり読むと、
まさに僕たちの思考は
「バカの壁」「バカの鏡」を突き破れるのではないか?
そんなことを、僕は、
秋の夜長に感じたわけです。
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