第1117回
「手」は思想を表現する?
秋の夜長に、じっくりと読む本が少ない!
と、ぶつぶついっているときに、
一冊の分厚い本が、
ドスン!と、わが家に送られてきた話の続きです。
送られてきたのは、
「手の五〇〇万年史―手と脳と言語はいかに結びついたか」
という翻訳書ですが、
分かりやすく結論から言いますと、
他の哺乳類と違って
人類(ホモサピエンス)が
卓越した英知を勝ち得て進化してきたのは、
「脳の進化」だけでなく、
「手の進化」によるものだ――、
ということを、ホモサピエンス以前の
500万年の「手の変遷」から忠実に調べた、
歴史書でもあるわけです。
「脳の成長」によって、
人類が英知=優れた文化を勝ち取ったとする、
従来の一元論的進化論だけでなく、
身体の進化、とくに「手」の進化に注目。
「脳と手の“共進化”が人類を人類たらしめた」
ということを実証する、
「手の哲学」に関わる
諸学説はなかなか素人には
理解しがたいものもあります。
大雑把に解説しますが、
以下のような「手と脳の相互作用」で
人類は、今日の英知をつかんだというのです。
「手による道具の使用」→「言語の使用」→
「知的行動の要求」→「脳の拡大」→「手による道具の使用」
さて、本書の主旨は
「手は思想を表現するほどの人類特有の器官である」
といった
「手の哲学」なのですが、
随所に、「手のミステリー」といった
興味深い例証もちりばめられています。
「手話」から「右利き、左利き」の検証から、
脳が「右脳、左脳」に分化して進化する話などは、
じつに面白い読み物です。
1週間、2週間と、
じっくり愉しむには読みごたえ、
いや「手」ごたえのある本です。
まえに、歴史書は、
時代を映す「鏡」もしくは「鑑」である――、
平安時代の「大鏡」という歴史物語は、
「歴史を明らかに映し出した優れた鏡」という意味で、
つけられたという話を書きました。
人間の500万年、そのものを
人体医学はもちろん、
脳神経学、霊長類学、人類学、
遺伝学、発達心理学、言語学などの
多元的に、かつ鋭角的な調査活動で観察した
膨大なる「手の歴史ドラマ」でしょうから、
たとえはどうか分かりませんが、
虫眼鏡級や近視眼的なの
くだらん本や雑誌が氾濫する中で、
天体望遠鏡クラスの
『超・大鏡』といってもよい、
読み応えのある本の部類に入るものですから、
興味があれば、秋の夜長に愉しむ本の一冊に
加えておいてほしいと思います。
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