第1084回
安岡章太郎著「観自在」を読む
誰にでも、一人や二人、
人生の師と尊敬する先輩がいるものです。
邱永漢さんのように、
傘寿80歳を超えて、
いまなお、事業に東奔西走し、
著作活動に活躍しておられる方となれば、
ますます敬愛の度合いが増します。
ところで、85歳にして、
いまなお活躍されている
作家の安岡章太郎さんも、
僕が私淑し、敬愛するおひとりです。
ご存知のように、邱永漢さんは
現役、最長老の直木賞作家ですが、
安岡さんは、芥川賞の現役・最長老、
いまや日本文壇の重鎮であります。
僕の週刊誌編集長時代から、
公私にわたってお世話になり、
いまだ、奥様ともども、
お付き合い頂いている大先達です。
安岡章太郎さんといえば、
自らを「病気のデパート」と呼ぶほどで、
大学生、徴兵、そして作家としてデビューしたころには、
脊椎カリエスという骨が駄目になる病気と闘い、
中年以降も、内耳疾患から起こる
めまいによるメニエール病など、
さまざまな病気と闘病を繰り返してこられましたが、
その都度、上手に克服されてこられたのには、
驚嘆しております。
ところで、先日、
その安岡先生の直筆サイン入りの
近著「観自在」(世界文化社)を送っていただきました。
むしむしと暑い気候が本番となってきましたので、
アイスクリームの
「ハーゲンダッツ・ワッフルセット」を送ったのですが、
ふんわりとしたワッフルに
アイスクリームを挟んで食べるのが
気に入ったようで、
自署サインのほかに、
「アイスクリームをありがとう」と、
大きな字でしたためた
本の栞(しおり)もついておりました。
さて、送っていただいた本は、
前作『雁行集』につづく、
単行本にも全集にも収められていない
安岡さんのエッセイの集大成の第2作です。
『雁行集』については、
このコラムでも、前に紹介したことがあります。
しみじみと、そしてユーモアの漂う
愉しいエッセイ集でしたが、
こんどの本は、前作より評論的な色彩が濃いもので、
とても読み応えがあります。
“とらわれない「眼」と「感動」がなければ、
ものは見えない。見ないにひとしい“と
本の帯には書いてあるように、
まさに「自在」に生きてきた学生時代、
徴兵時代、そして作家デビューの昔話だけでなく、
安岡さん独特の「歴史への観察」が
織り込まれて構成されていますから、
この混迷の時代に必読の名随想集です。
ファンの方ならずとも、
ぜひ、お読みになることを奨めます。
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