第548回
見直されるべきチベット医学
チベット医学の尿診断の話の続きですが、
やはり、その特色のひとつが、
東洋医学が重視する
「食べるより出す」の治療発想にあるようですね。
ムスタン王の侍医・ギャツオさんの話を聞きましょう。
「尿診断は前の夜は、
酒を飲まない、お喋りをしない、
食事も少量に控え、
水を適量飲む――
この約束事を守って、
早朝の尿を採取します。
尿の観察は『温かい』『ぬるい』『冷たい』の
3つの温度で確かめます。
尿が温かい間に『臭い、湯気、泡』を診ます。
ぬるくなったら『湯気、色の変化』
冷たくなったら『沈殿物の大きさ、形』
『混ざりものの大きさ、形』を診断します」
その結果、尿をかき混ぜると、
「泡立って透明尿の人はルンの病気=気が弱っている。
泡立って黄色尿の人はティパの病気=熱の病
濁って不純物の多い人はペーケンの病気=重い病気――
という風に診断し、それぞれ、気の上昇する薬、
冷たい薬、温かい薬を調合するわけです」
どうです?
一言、尿診断と言っても
じつに微細に渡って観察するわけですね。
さて、その治療法ですが、
チベット医学は密教との関係は切り離せないわけで、
「貪り」「怒り」「無知」の3つの毒(煩悩)、
つまり愚かさ故に病にかかるという考え方ですから、
まず、煩悩を減らすために仏陀が教える
善行を努めることを基本とします。
ただし、現実には薬草による治療法が中心です。
とくにヒマラヤの高地で育った薬草は、
過酷な環境に耐えぬいているだけに、
効力が強いと言われています。
ヨモギの仲間のArtemisia は、
お香の原料や鎮痛薬。
オオバコの仲間のPlantago majorは
便秘症や整腸薬として用いられているようです。
いま、ガンや糖尿病のような複雑な病気にも、
こうした薬草が見直されており、
中国と西洋医学の結合治療だけでなく、
ギャツオさんたちは、
チベット医学と西洋医学の結合治療も
目指しているとのことです。
|