第54回
生命の風(ルン)って何? チベット医学の奥の深さと面白さ
僕は、たまたま、ガンになって死を垣間見ました。
長寿社会や情報社会の恩恵にどっぷりつかりながら、
なぜ、俺の肉体だけが人生途上で
「おさらば」という不運に遭うのか?
これは理不尽だ。なにか命を拾う手だてがあるはずだ。
そんなじつに強欲な発想で命の再生を模索したわけです。
ところが皮肉なことに、この長寿社会と情報社会は
人間の英知を集めたはずの西洋医術だけでは、
とてもとても「ガンは治せない」ことに
気づかせてくれたと思います。
ことガンだけではありませんね。
9・11テロ事件、狂牛病騒動、さらに原子炉事故、株の乱高下…
国際紛争、環境破壊や経済閉塞にしても、
いまの自然科学、社会科学、人文科学では
解決の手だてに限界が来ている。そう思いませんか?
すべてに自然宇宙の大きな流れと人間の共存思考が
根底から見直されるべきときでしょう。
別に哲学者のように厄介な屁理屈はこねませんが、
ガン闘病は決して臓腑を切り刻む「医学」だけの問題ではない。
命と意識を丸ごと扱う「哲学」の問題だと
改めて、チベットの風が教えてくれたように思いました。
チベットは「心の療法」の発祥地でもありますから、
少しチベット医学と密教との関係についても
触れておきたいと思います。
チベット医学は手っ取り早くいうと、
中国医学の「気」の考え方と似ているところがあります。
宇宙自然の生命エネルギーの流れと、
心身の命の流れは繋がっていて、
病気も心身の命の流れのバランスをはかることによって
病気の根源を取り除くという考え方です。
手術よりも薬や食養生といった
自然治癒力を大事に考える医学ですから、
まさにホリスティックな(全人間的な)医療の
源流ということができます。
ただ、この医学の原典の「四部医典」には、
病気の原因が前世の祟りであったり、
憑依(ひょうい)であったり、
家族を脈診することで本人の病気を占ったり、
なかなか現代人には理解しがたい
呪術的な部分もたくさんあります。
専門的に解説すると、ややこしくなりますが、
人間に命の息吹を与えるのは目に見える血液だけでなく
「3体液」だといいます。
命に息吹を与える「ルン(風)」「チーバ(胆汁)」
「ぺーケン(粘液)」という
3つの「気液」があるというのがチベット医学の基本です。
「ツデ(霊感脈管)」という中国医学でいう
経絡のような命の管が体の頭頂から末端まで貫いていて、
そこを流れる3体液のバランスが崩れると
病気になるという考え方です。
面白いでしょ? いま現代医学は、
やたらと患者の臓器を切ったり叩いたりして
治療に手こずっています。
きっとチベット医学はその限界をせせら笑う
「命のパロディ」なのかも知れませんね。
いや、難病の謎を解き明かす
「逆転の発想」を秘めていると思いませんか?
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