第66回
名実ともに天下一の大露天風呂
水上(みなかみ)温泉を過ぎて、
利根川の源流を遡上(そじょう)すること約30分。
尾瀬へ向かう県道と分かれて、赤い橋を渡ると
「船付場」というバス停があります。
なぜ、こんな山奥に……と誰もが不思議に思いますが、
実はこの地名が、これから訪ねる温泉地の歴史を物語っています。
宝川温泉「汪泉閣(おうせんかく」。
知る人ぞ知る、秘湯の一軒宿です。
江戸時代には、すでに湯小屋があり、
皮膚病や子どものかんの虫に特効があるとされ、
馬や山かごで湯治客がやって来たといいます。
宿の開業は大正12(1923)年。
建築資材を陸路で運べなかったため、
利根川を利用して船で木材を運んだときの名残が、
バス停の名前として今も残されているとのことです。
宝川温泉と聞くと、年配の方は
「ああ、熊と一緒に入る温泉だ」と、
なつかしく思い出される人もいるはずです。
昭和25年頃、親を亡くした2頭の子熊を、
宿主が手塩にかけて育てたのが熊との出合いでした。
いつしか、なついた熊が人間と一緒に
風呂に入るようになったため、
当時のテレビや新聞、雑誌に取り上げられ、
宝川温泉は“入浴熊のいる温泉”として
一躍全国に知られるようになりました。
現在は条例により禁止されているため、
熊と一緒には入浴できませんが、
今でも敷地内の熊園で何頭もの熊が、
客たちを出迎えています。
宝川温泉の自慢といえば昔も今も、
川と見間違うほどの大露天風呂です。
宝川の清流をはさんで、
手前から「摩訶(まか)の湯」
「般若(はんにゃ)の湯」、
吊り橋を渡ると「子宝の湯」があり、
これら3つの浴槽は混浴です。
最下流には女性専用の「摩耶(まや)の湯」があり、
4つの露天風呂を合わせた広さは、なんと470畳分!
おまけに総湯量が毎分約1800リットルという
4本の自家源泉を所有しているため、すべてが源泉かけ流し。
まさに名実ともに、天下一の大露天風呂です。
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