温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第58回
何もないって素晴らしい

<四万(しま)には、コンビニがありません。
 四万には、信号機がありません。
 四万には、歓楽施設がありません。>

これは昨年9月に出版した拙著
『あなたにも教えたい四万温泉』(上毛新聞社)の
序文の書き出しです。
私と四万温泉との付き合いは20年以上も前からになりますが、
「四万温泉の本を書こう」と思ったのは、
あるイベントがきっかけでした。

私がタウン誌の編集者を辞め、
フリーランスのライターになって間もなくのことです。
2000年4月、群馬県が「ぐんま温泉紀行」と題して、
ペア2000組を県内19カ所の温泉旅館に優待するという
キャンペーンを行いました。
県内および首都圏から5万通を超える応募があり、
このとき四万温泉が「泊まりたい温泉」のトップとなったのです。

常に国内温泉の人気投票で1位となっていた草津温泉
ダントツになると予想していただけに、誰もが結果に驚きました。
何よりも一番驚いたのは、四万温泉の人たちでした。
「地元の我々には分からない四万の魅力を、
よその人たちは気づいているのではないか」
「だったら我々が見落としている四万の良さを、
外の人たちに教えてもらおう」と、
その年の10月に開催されたのが、四万温泉協会主催による
『探四万展(さがしまてん)』というイベントでした。

県内外から画家、イラストレーター、彫刻家、
カメラマンら12人のアーティストを集め、
四万温泉をテーマにした作品作りを依頼。
私もコピーライターとして参加しました。
作品は期間中、四万温泉協会事務局のギャラリーにて展示され、
ポストカードになり各旅館や商店でも販売されました。

イベントに併せて、シンポジウムも開催されました。
このとき、参加者からは
「このままの自然を大切にしてほしい」
「不便なところが四万の良さ」「地元の人との触れ合いがある」
など、さまざまな意見が出されました。
そして、来場者からのアンケートでも
一番多かった声が
“何もない良さ”だったのです。
言い換えれば、大温泉地のような歓楽施設やコンビニがなく、
自然と環境を邪魔するものがないから、
純粋に湯を楽しめる温泉地だということです。

四万温泉には37軒の宿があり、43本の源泉が湧いています。
そして何百年もの間、
湯とともに暮らしてきた素朴な人たちがいます。

「何もない」のではなく、
「湯があること」の素晴らしさを知っている
からこそ、
四万温泉は変わらずにいられるのでしょう。


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2012年6月16日(土)

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