第28回
半出来とは上出来のことなり
全国には約3000もの温泉地があります。
乳頭(にゅうとう)温泉や白骨(しらほね)温泉、
強首(こわくび)温泉、下呂(げろ)温泉など、
ユニークな名前の温泉は数ありますが、
群馬県の半出来(はんでき)温泉も
珍名温泉の上位にランキングされることでしょう。
JR吾妻線の無人駅、袋倉駅のホームに降り立つと、
正面に「半出来温泉 徒歩8分」の看板が目に入ります。
坂道を下り、高架橋をくぐり抜けると、
また小さな看板が立っています。
矢印と「足元にお気をつけください」の文字。
ここからは雑木林の中を歩き、吾妻川の河岸へと下りて行きます。
最後に、細くて白い吊り橋を渡れば、そこが半出来温泉です。
「半出来」とは、源泉が湧く土地の字名とのこと。
由来には、作物が半分しか収穫できない
荒れた土地だからという説がありますが、
2代目主人の深井克輝さんは異論を唱えます。
「“半”という字は、『ナカラ』とも読みます。
群馬の方言にも“なかなか”とか“かなり”という意味を表す
『ナカラ』という言葉があります。
だから私は、かなり出来の良い土地のことだと解釈しています」
その、ナカラ出来の良い土地に湧いた
湯の効能は多種にわたり、
昭和の頃より地元の人たちに愛され続けています。
泉質はナトリウム・カルシウム−塩化物温泉。
マグネシウムやカリウム、鉄分等のミネラルが多く、
胃酸の分泌を促す作用があることから
「胃腸の湯」といわれています。
湯口にコップが置いてあり、飲泉もできます。
湯の中で、ジッとしていると、
体に小さな泡付くのが分かります。
昔から、泡の出る温泉は骨の髄まで温まるといわれ
珍重されてきました。
名前は半出来なれど、湯はとても上出来な温泉です。
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