第24回
神様のいる温泉 いない温泉
こんな話を聞いたことはありませんか?
「あの神社には何度お願いごとをしても、
絶対に御利益はないよ。
だって神様がいないんだから」
社が朽ち果て、境内は草ぼうぼう、訪れる人もいない神社です。
神様も、あきれ果て、引っ越しをしてしまったようです。
一方、小さな村社でも、氏子らが大切に守っている神社には、
いつ訪ねても凜(りん)とした空気が漂っています。
神様も居心地が良いのでしょう。
その見返りに、御利益を授けます。
日本国内には、約3000ヵ所の温泉地があります。
さらに平成以降の平野部にできた日帰り温泉施設も加えれば、
その数は倍以上になるはずです。
でも私は、そのすべての温泉に
御利益(効能)があるとは思っていません。
やはり、温泉にも「神様のいる温泉」と
「神様のいない温泉」があるからです。
開湯以来、何百年と湯を守り続けてきた
古湯と呼ばれる温泉地には、
必ず「薬師様」が祀られています。
立派なお堂が建つ温泉地もあれば、
泉源の脇にひっそりと石像だけが立つ温泉地もあります。
温泉地の規模によって、その祀られかたは様々ですが、
温泉に対する人々の畏敬の念を感じます。
温泉とは、地表に降った雨が地中深くしみ込んで、
マグマに温められ、何十年という長い時間をかけて
地上へと湧き上がってきた地球からの“恵み”です。
その恩恵を浴するために先人たちは、
湯が自噴する場所に宿を建てて、温泉地をつくりました。
現在、私たちは掘削技術の進歩により、
日本全国どこでも温泉を浴せるようになりました。
確かに、街中の手軽な温泉も温泉には違いないのでしょう。
でも、昔から湧きつづけている歴史ある温泉と
同じであるわけがありません。
もし私が神様なら、どちらに宿るかは歴然としています。
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