第21回
自然流下の宿
以前、私は「いい湯守(ゆもり)は、
湯に手を加えることを嫌う」と言いました。
自然に湧いた温泉を、できるだけそのままの形で
浴槽まで流し入れたいからです。
これを「自然流下」といいます。
一切、動力を使わず、地形の高低差だけを利用して
引き湯をすることです。
よって、いい湯守のいる宿の浴室は、
必ず建物の階下にあります。
宿に着いて風呂へ行こうとすると、玄関のある階よりも
下へ下へと、いくつもの階段を降りた経験はありませんか?
これは、源泉の湧出地より低い場所に
浴室が造られているからなのです。
自然湧出の温泉は、
たいがい地層が露出している川のそばに湧きます。
この温泉を効率良く利用しようと思えば、
浴槽を川のほとりに造ります。
でも宿は、水害等の危険を考えて、
川を見下ろす高い場所に建てられます。
だから浴室が建物の階下にあるのは、当然のことなのです。
大きな観光旅館やホテルへ行くと、
最上階に展望風呂なるものを見かけますが、
これなどは、まったくもって
自然の理に反している給湯方法といえます。
動力によりポンプアップして、一度、屋上のタンクに温泉を貯め、
それから給湯するわけですから
湯は空気に触れ酸化し、
タンクの中で長時間保管されているため劣化します。
当然、温度が下がるので加熱してから浴槽へ送ることになります。
これでは、絶景は望めるかもしれませんが、
温泉の質は望めません。
「自然湧出」「自然流下」「かけ流し」
これが、いい温泉を見極める3条件です。
今や全国でも、この条件を満たしている温泉宿は希少ですが、
探す価値は十分にあります。
ぜひ、挑戦してみてください。
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