第10回
もう1つの泉質
「小暮さんは、温泉に入るだけで、
泉質が分かってしまうんですか?」
そんな質問をされることがあります。
でも、残念ながら私は、まだ、そのレベルには達していません。
腐卵臭のする硫黄泉や泡の付く二酸化炭素泉、
なめると塩辛い塩化物泉、酸っぱい酸性泉など
特長のある泉質ぐらいは分かりますが、
微妙に複数の成分が含まれている泉質にいたっては、
専門家ではないので分かりかねます。
ただ、浴槽に入る前に分かってしまう泉質が、1つだけあります。
それは「塩素泉」です。
えっ、そんな名前の泉質の温泉ってありましたっけ?
と思った人は、なかなかの温泉通ですね。
そうです、そんな名前の泉質はありません。
「塩素泉」とは、塩素消毒された温泉のことなんです。
平成14(2002)年に宮崎県の公共温泉施設で、
レジオネラ菌が大量発生して、約300人が感染、
7人が死亡するという事件が起きました。
これにより全国の入浴施設では、
それまで以上に塩素消毒を徹底するようになりました。
なかには条例で「温泉には塩素を入れるように」と指導する
自治体も出始めました。
確かに塩素は殺菌作用はありますが、
家庭で使用している漂白剤と同じですから、
その害には深刻なものがあります。
アトピー性皮膚炎を悪化させたり、
健康な人でも肌や髪の老化を促進させてしまいます。
これでは、何のために温泉に入っているのか分かりません。
実は、私の肌は、微量の塩素でも反応してしまう
アレルギー体質なのです。
湯に入った瞬間から、全身がかゆくなります。
「それで温泉ライターをやってられますね?」
と人から笑われたことがありましたが、
いえいえ、どうして、この体質がとっても重宝しているのです。
良い温泉を見分ける
リトマス試験紙の役割をしてくれるからです。
ただ最近は、山のいで湯にも
「塩素泉」が登場し始めていることは、
とても残念でなりません。
せっかく、いい温泉が湧いているのに、
浴槽を大きくしたために、湯量が足りなくなり、
循環ろ過をしながら塩素消毒をしているとは、
なんて、もったいない話でしょう。
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