温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第7回
冷鉱泉に薬湯あり

「なーんだ、ここんちは沸かし湯か!」
時々、温泉場で、こんなことを言う人を見かけます。
決まって、年配の男性です。

沸かし湯とは、温度の低い温泉を
加熱して使用していることを指しているようです。
この人たちは、
温泉はすべて温かいものだと思い込んでいるのですね。

しかし現在の温泉法では、 温度が低くても、
定められた成分が基準値以上含まれていれば、
温度にかかわらず「温泉」と認められています。

このあたりが、年配の人たちには、誤解を招きやすいのでしょう。
なぜなら、その昔は、
「温かい温泉」を温泉と呼び、
「冷たい温泉」は冷鉱泉(略して、鉱泉)

と呼び分けていた
からです。

群馬県を例にとって説明すれば、
赤城山−榛名山−浅間山の火山ラインを境にして、
北側の山岳部に温度の熱い温泉が湧き、
南側の平野部では温度の低い温泉または冷鉱泉が湧いています。
例外を除いては、火山帯のない平野部に
高温の温泉が自然湧出することはありません。

平成以降、ボーリング技術が飛躍的に進歩し、
大深度掘削による平野部の温泉が急増しました。
これらは、地温の上昇率を利用した温泉です。
地温は100メートルごとに2、3度上昇しますから、
平均地温が約15度としても1000メートル以上掘れば、
40度前後の温かい温泉を掘り当てることができるのです。

言い換えれば、今の温泉法では
25度以上あれば温泉と認められるわけですから、
この掘削技術をもってすれば、
日本中どこでも温泉が湧いてしまうことになります。

そんな現代において、
わざわざ加熱してまで入る冷鉱泉の存在は見逃せません。

昔、先人たちは“泉”を見つけました。
その泉は、飲めば胃腸病に効き、肌に塗れば皮膚病に効きました。
いつしか人々は、この泉を「薬湯」と呼び、
薬師様を祀り、願をかけるようになったのです。

群馬県の西部に、
坂口温泉「小三荘」という一軒宿があります。
開湯から300年以上経った今でも、
その効能を求めて遠方より多くの人が訪れています。

浴室から見える裏庭には、
いくつもの小さな石仏が壇上に並んでいます。
その数、30体あまり。
これが「薬師の湯」の名で、
昔から人々に親しまれてきた名残だといいます。

現代のように医学が発達していなかった時代のこと。
万病を治してくれる薬師の湯は、
当時の人々のよりどころだったに違いありません。
皮膚病や眼病などを治してもらったお礼にと、
奉納されたのが、この石仏群だったのです。

だから私は、冷鉱泉の温泉のことを
「沸かし湯」だなんて、言えません。
冷鉱泉に薬湯あり。
そう、思っているからです。


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2011年12月21日(水)

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