第6回
車で行けない温泉
旅行雑誌やガイドブックで紹介されている秘湯の宿へ
「実際に行ってみて、落胆した」という人の話をよく聞きます。
交通量の多い国道沿いにあったり、
近代的な鉄筋の建物だったり、
湧出量を無視した見かけ倒しの露天風呂があったりと、
読者の好奇心をあおった言葉だけの“秘湯”が
数多く存在しているように思われます。
秘湯とは「人にあまり知られていない温泉」のことです。
でも、情報過多の現代では、知っているか、知らないか、は
個人の情報収集力の違いであって、
秘湯の価値とは、あまり関係ないようです。
私にとって秘湯とは、
「わざわざ訪ねるだけの甲斐がある温泉」のことです。
群馬県内にも、秘湯と呼ぶにふさわしい温泉宿が、
いくつかあります。
その中でも、ぜひ一度、訪ねてみてほしい
絶景の宿を2軒ご紹介しましょう。
どちらも車で宿まで行けない、秘湯中の秘湯です。
旧六合(くに)村(現・中之条町)に、
湯の平(たいら)温泉「松泉閣」という一軒宿があります。
国道から急坂を下りると、行き止まりに駐車場があります。
ここからは渓谷対岸の宿まで歩くのですが、
荷物がある場合は、架空索道(かくうさくどう)と呼ばれる
ゴンドラに乗せて運びます。
戦時中、ここには鉱山があり、
湯の平温泉は掘削を請け負った会社の宿舎でした。
架空索道は、その時代の名残なのです。
目が覚めるようなコバルトブルー色した白砂川を吊り橋で渡り、
息を切らして山道を登ること約10分で、宿に着きます。
露天風呂へは、ふたたび、木々がうっ蒼と生い茂る小道を
川床へ向かって5分ほど下ります。
自然石を敷きつめた川沿いの露天風呂は、まさに絶景の一言!
しかも、かけ流し。
高温で湯量豊富な源泉に恵まれている証拠です。
もう1軒は、旧松井田町(現・安中市)にある
霧積温泉「金湯館」です。
その昔、映画『人間の証明』の舞台となり、
「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」という
西条八十の詩とともに大ブームになったことがありました。
あの頃は、山道が渋滞するほど賑わったといいますが、
今はまた、訪れる人もまばらな秘湯の宿です。
霧積温泉には、2軒の宿があります。
車で行けるのは、下の「きりづみ館」まで。
「金湯館」へは、ここから登山道を
約30分かけて歩くことになります。
ただし、足の悪い人や高齢者、日没後に到着した宿泊客は、
事前の予約により宿から送迎車を出してくれます。
(通常、宿までの道はゲートにより閉鎖されています)
汗をかいて、苦労してたどり着いた宿には、
極上の温泉が待っています。
源泉の温度は約40度とぬるめですが、炭酸を含んでいるため、
あれよあれよのうちに全身が白い泡につつまれてしまいます。
昔から泡の出る湯は、骨の髄まで温まるといわれ、
たいへん保温力に優れた温泉です。
ぜひ、群馬の秘湯に、お出かけください。
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