第2回
源泉一軒宿の魅力
私は群馬県生まれの、群馬県育ちです。
長年、県内のタウン誌、生活情報誌、
フリーペーパーの編集人をやってきました。
群馬で雑誌を作るということは、
どうしても避けて通れないテーマがあります。
それは、「温泉」です。
秋の紅葉や冬の雪見のシーズンになると、
各誌は決まって“絶景の露天風呂”を集めた特集を組みます。
ところが、毎年毎年、掲載される温泉は、
どこも似たか寄ったかの構成。
これは、どういうことなのだろう?と
手垢にまみれた情報に、うんざりとしていました。
全国誌が群馬県内の有名温泉地しか取り上げないのは
仕方がないにしても、地元誌の情報量がこれでは、
編集人の沽券にかかわります。
そこで調べてみると、あるわあるわ。
群馬県内には、私が行ったことも聞いたこともない
温泉地が90カ所以上も存在したのです。
それも、実に全体の約8割が10軒の宿に満たない小さな温泉地。
さらに、その約8割(全体の半分以上)が、
たった一軒の宿で
温泉地の看板と源泉の湧出地を守っている、
“源泉一軒宿”だったのです。
温泉大国、ぐんま。
湯の国、群馬県。
とかく旅行雑誌やガイドブックでは、
草津温泉や伊香保温泉といった大温泉地ばかりが目立ちますが、
実は温泉大国の群馬県を支えていたのは、
名の知られていない、小さな小さな温泉地なのです。
戦後、日本の温泉地はどこも急速に変貌しました。
高度成長の波に乗り、バブルの風にあおられて、
大型バスで団体客が温泉地へとなだれ込み、
湯量に見合わない大浴場と露天風呂をこぞって造りました。
そして気がついたら、
宴会客中心の大型ホテルや旅館が立ち並ぶ
“観光地”へと姿を変えてしまっていたのです。
しかし高度成長期、バブル期と
大温泉地が集客に酔狂している間も
小さな一軒宿の温泉地は、かたくなに湯を守り続けていました。
究極の贅沢を求めて温泉を旅するとすれば、
それは源泉をひとりじめできる一軒宿の旅なのではないか。
そう思った私は、県内すべての温泉地を
余すことなく取材して回ろうと考えました。
|