第1回
心の湯治に出かけよう!
湯治とは、読んで字のごとく
“温泉に入って体を治す”ことです。
現代では死語のような言葉ですが、
その昔は温泉へ行くと言えば、 「湯治へ行く」ことでした。
春湯治、夏湯治、秋湯治、寒湯治……
江戸時代、人口の90パーセントが農漁村に暮らしていましたから、
人々は過酷な作業で疲弊した身体を癒やし、
明日へのエネルギーを養うために、
農閑期や漁と漁の合間に湯治に出かけて行ったのです。
当時、「旅人」と「湯治客」の宿泊施設は、
きちんと分けられていました。
旅人は「宿場町の旅籠」、湯治客は「温泉宿」です。
旅人が温泉宿に1泊2日で泊まることは許されず、
また旅籠に連泊することも御法度でした。
あくまでも温泉地の宿は、
湯治目的の長期滞在者だけの施設だったのです。
ところが、この常識を覆す事件が起こりました。
文化2(1805)年、江戸後期に箱根湯本温泉で起きた
「一夜湯治事件」です。
元来、1週間以上逗留する湯治客以外は
受け入れてはいけない温泉宿が、
1泊だけの旅人を泊めてしまったのです。
当然、近くの小田原や箱根の宿場の者たちは
「湯治場が旅人を泊めるのはルール違反で、かつ営業妨害だ!」
と怒って、お上(道中奉公)に訴えました。
しかし、お上の評定は「おとがめなし」と、
一夜湯治を認めてしまったのです。
この事件をきっかけに、湯治以外の目的で旅人が
温泉地に泊まるようになったといわれています。
いまは温泉へ行くと言えば、
そのほとんどの人が「観光目的」です。
医学や医薬が進歩した現代、身体の具合が悪いからといって、
すぐに休暇を取って温泉へ出かけて行く人は、滅多にいません。
では、どうして現代人は、温泉へ行くのでしょうか?
その前に、あなたはどんなときに温泉へ行きたいと思いますか?
それは、心や体が疲れたと感じたときではありませんか。
医療技術が発達した現代でも、
人は温泉に“湯治”を求めているからです。
温泉だけが持つ、湯力(ゆぢから)があることを
現代人も知っているのです。
さあ、心の湯治に出かけましょう!
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