| 第43回サラリーマンに社長が務まりますか?
 あなたが、今日海外子会社の社長に就任したとしたら、どんな挨拶をしますか?
 2001年4月、私と家族は海を渡り、
 初めての海外生活を始めました。
 引越し自体あまり荷物数が多くなかったので
 大したことはなかったのですが、
 エレベーターのない5階へ荷物を運び上げるのに
 引越し業者がへばってしまい、
 それに加勢した私もまたへばってしまいました。
 また、4月というのに汗だくになって作業を終えた後、シャワーでも浴びてさっぱりしようとしたら今度は湯が出ない、
 というハプニングに見舞われ、
 その日は近くのホテルに泊まらざるを得なくなってしましました。
 あまり幸先のよくないスタートとなってしまいましたが、
 とにかくもう後戻りできないことだけは確かでした。
 次の日の朝、会社に出向いた私は社員のみんなに集まってもらい、英語で総経理就任の挨拶をしました。
 スピーチの中身についてはよく憶えていませんが、
 「自分では総経理の器ではないと思うがとにかくがんばる」
 というような内容だったと思います。
 終わるとちょっとの間があり、
 ハッとしたように一人の社員が拍手を始め、
 みんなが後に続きました。
 私も不安でしたが、社員たちもそれ以上に不安だったと思います。台湾ではボスや会長(当事長)、社長(総経理)のことを
 老
  (ラオバン)と呼びますが、 彼らは大部分が自らも会社の大株主として
 資本を投じながら経営を行う、「頼れる親分」であり、
 童顔で背が低く色が白い、
 大人しげな日本人サラリーマン風情とは、
 埋めようもないギャップが存在していたのでした。
 お客様のところへ挨拶に回ってみると、「御社の総経理、随分お若いですね〜」と、
 表面的には穏やかな英語で話しかけてくれるのですが、
 台湾人スタッフ間の機関銃のような北京語による商談が始ると、
 ただ聞いているだけの私は、飾り物の人形のような、
 ビジネスマンとしての資質を値踏みされているような
 不安感に苛まれたものでした。
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