第4回
条件面の疑問が次第に大きくなって・・・
第二日目、交渉が進むにつれ、
我々が当初思い描いていた内容と、先方の主張の間に、
かなりの相違点があることが明らかになってきました。
まず、交渉案件の核となる、
事業譲渡に関わる知的財産権ですが、
当初われわれは純然たる所有権の移転、と考えていたものを、
センサーテック社は、当該事業には再参入しないことを条件に、
名義変更後も
その知的財産を無償で使用できることを主張してきました。
また、センサーモジュールを動かすための
ソフトウェアプログラムについても、
センサーテック社の他製品との共用である、という理由で
期限付きのライセンスのみ認め、
ソースコード(プログラムの設計図のようなもの)の
移管についてはそれを拒否してきました。
さらに、センサーテック社はその事業について、
米国で製品開発、台湾で製造販売、
という役割分担をしていましたが、
我々との交渉が始まる半年前には撤退を顧客に表明していたため、
当該事業に関わっていた人間は他部門に移るか、
既にセンサーテック社を離れていました。
つまり、事業移管にあたっては、
残務処理にあたっていた台湾の販売・製造部門を除く
人的な支援は受けられそうもないことが、
交渉の過程で明らかになってきたのです。
私には、経営大学院での耳学問的な知識しかなかったものの、
なんとなくこの話はアブナイような気がしてきました。
前の会社で働いていたときにも、
同じような勘が働いたことがありましたが、
「感覚的に、ありそうもない」ものごとに出会ったときに、
そのような気持ちになることに、後になって気がつきました。
しかし、その場の雰囲気に飲まれずにその勘を活かすことが、
そのときの私にはできませんでした。
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