第134回
野菜生産者とシェフの熱い関係
オーストラリア専門のワインバー『アロッサ』の
佐藤幸二シェフもまた
野菜に熱いコックのひとりです。
以前勤めていたリストランテで知り合った
千葉のエコファーム・アサノから届けてもらっている
とのことですが
シェフは、自分の料理よりも
この野菜たちについて語らせると、途端に
饒舌になる人でした。
浅野さんは独自の理論で、簡単に言えば
あえて痩せた土で
ミネラルのバランスに着目して
強い野菜を育てているのだとか。
海洋深層水や霊芝、カキ殻石灰などを与えられ
木酢液や焼酎で守られるそれらは
見た目は決してふくよかでなく
むしろどれも小さくて、ワイルドな
人間にたとえたらアスリートのような野菜です。
土が、水が、輪作がどうだとか、
じゃがいもは穫れたてより
1℃程度の低温で1年ほど熟成させたほうが
甘みとコクが出ておいしくなるなど
佐藤シェフの
かなり気合いが入った言葉を訊きつつ
ひとくちかじってみれば
もう目から鱗です。
野菜の、なんとパワフルなことか。
昨秋から寝かせていた
じゃがいも「インカの目覚め」のバターローストなんて
むっちりとして、非常に濃厚。
ほかにもプレコーチェ、黒大根、ムラサキアスパラなど
個性的な野菜に刺激されて
佐藤シェフは
遊び心たっぷりの皿を供します。
そう、彼もまた
浅野さんの野菜に負けず劣らず個性的な人のようで。
彼は、日本のホテル・フレンチを皮切りに
「ヴェネツィアが好き」
とイタリアへ渡り、なぜかフィレンツェの料理学校の講師になり、
マルケ州アンコーナ、
エミリア・ロマーニャ州チェゼナーティコの店を経て、
ミラノの『ジョイア』にボルツァーノの『ショーネック』と
計約3年間修業。
その後
「ウイスキーが好きで」
と言ってはドーバー海峡を渡ってイギリスへ行き、
「すっごくマンゴーが食べたくて」
とタイへ飛び、その国のホテルの総料理長まで務め
ネパール、フランスにもちょっとだけ寄って帰国。
日本では『ヒロ・チェントロ』を経て、現在に至ります。
彼のお皿は
なんというか、やんちゃでチャーミング。
たとえば宮崎のお醤油を隠し味に使ったり、
バーニャカウダに
にんにくとアンチョビの定番ソースのほか
甜麺醤・豆板醤ベースの肉味噌や発酵イワシのソースなど
6種類を用意したり。
絵が好きで、
いつも行ける気軽な店が好きで、
チーズも自分で熟成させるという彼の
チャレンジングなアイデアを
ほかならぬシェフが
いちばん楽しんでいるような気がします。
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