至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第133回
食材の仕入れに手をかける

イタリアや日本の高級店で修業を積んでから
郊外で、リストランテのオーナーシェフとなった人が
食材についてこんな悩みをもっていました。
「郊外では、都心と相場が違うため
同じ料理を同じように作っていても、単価を
下げなければいけない。
となると使える食材が限られてきます。
ここは大自然があるほどの田舎ではないし
高級食材にもお金をかけられない
となると、その分安い食材に手をかけて
ある程度のレベルまでもっていく必要があるんです」

なるほど、と思いながら
私はまた別のシェフが言っていた
「僕は食材の“仕入れ”に手をかけるんです」
言葉を思い出していました。

親戚が牧場をやっているとか
親兄弟が農家だとか
自分で海に潜って魚を獲っているなど
そういう特例は別にして
一般に、コックが
信頼できる野菜や肉や魚介の生産者と出逢って
太いパイプをもつことは
料理の質や価格、そして経営に
ただならぬ影響を与えます。
だから多くの料理人は
そういったコネクションを求める傾向にあるわけで
そのために誰もが
自分は努力していると胸をはります。
(何をして努力と呼ぶかはまた別の話ですが)

しかし彼が言った「仕入れに手をかける」の意味は
単に人脈をつくるということだけではなく、
まず、料理人自身が
「知らないことを知ろうとすること」
そして
「動くこと」
なのだそうです。

最近、私は
野菜を語らせたら熱いシェフによく遭遇します。
スローフード運動が功を奏しているのか
はたまた
ヨーロッパで修業していたコック達に
土地の健康な野菜を使うという考え方が浸透したのか
それとも野菜ブームの影響か。
何にせよ彼らから感じるのは、
「人が口にするものを作っているんだから」
という使命感みたいな根っこと
「だって基本でしょ?」
というような、軽やかなニュアンス。
そんなシェフたちは
畑に行き、海に行き、山を登り
生産者達に食材のことを教えてもらっています。

太いパイプは
その後にできるもの。
電話一本で何でも注文できる時代ですが
動かなければ得られないことが
確実にあるのです。


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2004年6月23日(水)

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