第93回
白髪かくしは初期から
さて駿馬も老いれば駄馬に等しいといわれるが、
厳密にいえば、駄馬が、老いれば、
もっともっとひどいことになるに違いない。
ただもともと駄馬だった馬が、
もっと駄馬になってもさほど目立たない。
ところが、駿馬はその足の速さを注目させてきただけに、
いったんスピードが鈍ると、
誰の目にもその衰えが見えてしまう。
そういった馬にも、自分の足の衰えを
ごまかす方法があるかどうかわからないが、
人間ならどうやって
自分のもうろくぶりをかくそうかという知恵は働く。
自分に対してはもとよりのこと、
他人に対してもうまくとりつくろう必要が起きる。
たとえば、ホステスは四十歳が定年といわれるが、
定年をこえても働く女性は年がバレないように
一生懸命化粧でごまかそうとする。
メイドを勤める人も、あまり年をとっていると、
やとってもらえないから、同じように年をごまかす。
ただし、履歴書の上で、年をごまかすことはできたとしても、
年は顔にも頭脳にも現われるから、
やがてごまかせない時がやってくる。
厚化粧の奥から突然、バアさんの顔が飛び出してくると、
山本夏彦さんが何回も書いているが、
この頃の女性はますますごまかすのが上手になったので、
本当の年がさっぱりわからない。
白髪になってから白髪染めをやったのでは間に合わないが、
白髪が出はじめる頃からずっとやっておれば、
「この人、なかなか白髪にならないなあ」と思っていると、
とんでもないことになる。
人気商売をやっている人で、
シワやシミを見せないために絶えず整形手術をしている人があるが、
整形手術をやると皆似たような顔になってしまう。
テレビで見ていて、「あツ、この顔は整形した顔だな」
とわかってしまうようでは、
整形をしないほうがいいのではないだろうか。
男のハゲかくしについても同じことがいえる。
どうせアデランスのお世話になるのなら、
まだ髪毛が揃っている時からお世話にならないと間に合わない。
きくところによると、いつもテレビに出てくる有名なタレントの中にも、
若い時からずっとカツラをかぶっている人があるそうである。
この頃のカツラはなかなか巧妙にできていて、
年をとるにつれて、年にふさわしい
白髪まじりのカツラにかえて行くそうであるが、
その代わり値段もそれ相応に高いに違いない。
アデランスの株価を見たらなるほどと合点がいく。
しかし、私のように若い時から頭の髪の毛の薄いのを知られている者が
途中から突然、房々とした頭になったのではカッコがつかない。
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