第48回
事情を知れば店も選べる
おみやげ屋に案内してくれたガイドさんに
「この店、値切れますか」ときいてみる。
ヨーロッパではなかなか値切れないが、
東南アジアとか、アフリカに行くと、
「ご自分で交渉してみて下さい。まけてくれますよ」
という返事がかえってくる。
試みに半額に値切ってみる。
「それじゃとてもとても」と印度人なら
そこから掛け引きがはじまる。
ところによっては一発でオーケーになるところもある。
お客の心理は妙なもので、そうなると、
「しまった。えらいものをつかまされたらしいぞ」
と逆に損をした気持ちにさせられる。
観光コースにのせられると、
必ずこういう目にあわされるので、
私は店の中に入っても、ショーケースの中を覗き込んだり、
お茶のサービスを受けたりはするが、
滅多に物を買ったりはしない。
しかし、見ていると、おみやげ屋に入るたびに結構、
買物をする人がある。
そういう人がいるからこそ
おみやげ屋が成り立っているとはいえる。
私の観察では、そういう人はあまり旅慣れていない人か、
買物の下手な人かのどちらかである。
地元の人でおみやげ屋で物を買っている人があるだろうか。
誰でもだんだん土地の事情に通じてくると、
その土地ではどういうものが名産か、
どの店の製品が良いものか、
またどういうものがわざわざ遠くから
買いに来るだけの値打ちがあるかわかるようになる。
たとえば、私は陶器を買う趣味がある。
陶器といっても骨董品の陶器ではない。
現につくられているものだが、高価なものだと、
たいていの家庭では壊れたら大へんだと思って
飾り棚の中にしまい込んでしまう。
私はそれを毎日の食事に使っている。
百回使って一回、割るかもしれないことをおそれて、
九十九回使わないほうがよっぼど無駄だと思っているので、
壊されることを覚悟で毎日使う。
時々、本当に壊されたり、
欲張りのお手伝いさんに盗まれたりするが、
それはやむを得ない。
その代わり一年に一回か、
二回かはヨーロッパに行くので、
わざわざコペンハーゲンやウィーンや
ロンドンによって不足した分を補ってくる。
そういうことをくりかえしていると、
どのメーカーの食器はどこの店へ行けば、
品揃えができているか、値段はどこが一番安いかも、
大体、見当がついてくる。
私はマイセンやヘレンドのような東欧系の陶器は、
西ベルリンに行けばやすく買えると思っていたが、
実際に行ってみると、西ベルリンよりは
ウィーンのほうがずっと品が揃っていた。
ウィーンでは、マイセンの陶器を専門に売っている
大きな店があるし、
またヘレンドだけを売っている
二階建ての陳列スペースを持った専門店もある。
しかし、値段だけ比較すると、品揃いはできていないが、
香港九龍のオーシャン・ターミナルの中にある
ヘレンドの店のほうが安くて、
何もわざわざウィーンまで
出かけて行くほどのことがないことがわかる。
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