同じ会社のなかで国際分業を行えば、それはお互いに調節ができ、
協調も可能であろう。しかし、同業でも資本系統が違うと、たとえば、新日鉄が手をとって教えた浦項や宝山の製鉄所でも、できあがった商品は
お互いに競争になることがある。そういう場合は、俗にいう「ブーメラン現象」が起って、
日本が外国に教えてつくるようになった商品が日本に市場を求めて逆に攻め込んでくることがある。相撲でいう「恩を返す」とは、まさにこういうことであって、恩を返されることをおそれて、奥の手を教えない関取がいないように、産業界でも、出し惜しみをしているようでは自分が競争から脱落してしまう。
もし日本が教えなければ、西ドイツが教えるかもしれないし、ドイツが教えなければ
アメリカが教えることになるかもしれない。そうしたら人間的なつながりはなくなるし、市場の原理に従ってもっと激しい競争が行われることにもなってしまう。そういう正面衝突を避けて協調精神を発掘しながら、自分たちが生き残ろうとすれば、韓国から厚板やH型鋼の輸入はしても、薄板や超薄板やパイプで独自の開発をすすめ、他の追随を許さない日本の鉄鋼業のような弛まざる努力が必要であろう。「ブーメラン現象」をおそれて相手を抑えにかかるより、あらかじめ「ブーメラン現象」が起ることを覚悟してその対策をするくらいでなければ、地球的スケールでの競争には打ち勝ってはいけないのである。
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