おかげて、コスト・ダウンを迫られた国と、そうでない国のあいだの競争力に一段と大きな差がついてしまった。たとえば、日本の半導体メーカーが安売りをしたことに対してアメリカ政府は懲罰的な税金を課したが、そのこと自体「アメリカの敗北」を象徴するような出来事であった。競争をして生き残る代りに、ハンディをつけてもらえば、保護を受けた業者は合理化を怠り、早晩、身売りか、廃業に追い込まれてしまう。反対に罰金的課税を受けたり、輸入制限を受けた勝者のほうはさらに一段とコスト・ダウンに励むようになるから、両者の差はますますひらいていくことになる。
以上をみてもわかるように、為替相場を動かすことによって貿易収支のバランスが改善されると考えるのは、「自由貿易論者の幻想」にすぎず、ゴルフのハンディと同じように、ハンディのひらいた分だけ強者に精進と努力を強いるので、結果として強者をいよいよ強くする。強くなる者はますます強くなり、落伍する者とのひらきはますます大きくなるので、自由貿易の旗印はやがて色褪せて、劣勢国では説得力を失ってしまうことになる。
しかし、そこに至るまでの過程、物が経済強国から劣勢国に動くだけでなく、お金もまた輸出国から輸入国に動くのでアメリカのような恒常的な赤字国でも支払うお金に不足することがなくなる。大赤字にもかかわらず、物価が上がらないですむという珍現象も起る。それを多くのアメリカ人が「アメリカの繁栄」と錯覚しているのが、自国通貨が同時に世界通貨として通用しているために、借金が可能な環境の下で、タケノコ生活をしているだけのことにすぎない。気がついてみたら、家も土地も株も、およそ財産価値のあるものはみな人手に渡ってしまっているということになるはずである。

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