たとえば東南アジアに行くと、日本国内のような大規模店はまだ少ない。安売りをするなら、日本人は中国人や印度人にはとても及ばないけれど、(1)豊富な品揃え、(2)信頼のできる品質、(3)サービス及びアフ夕ー・サービスの良さ、(4)デラックスな雰囲気、
(5)清潔感、とくに食品売場やレストランの衛生状態の良いこと、(6)娯楽設備があって遊びに来て楽しい、(7)ワン・ストップ・ショッピングができる、(8)駐車場が完備していて、マイカー時代の要求に合致している、といった面では、現地のデパートに対して一日の長がある。そのいずれもお客の身になってやる経営だから、広い意味でのサービスであり、サービスの良さで地元住民の支持を得て初めて商売として成り立つのである。
日本料理屋やカラオケ・バーは最初のころはほとんど日本人相手でス夕ートしたが、最近では地元住民の姿も多くみられるようになった。しかし、日本料理屋のお客の半分が地元の人々で占められるようになっても、商売そのもののスケールは知れている。アメリカに行けばアメリカ人の食べ物で、香港や台湾に行ったら中華料理で勝負をするのでなければ、大きくは成長できないし、日本人が外国で成功した原則にのっとった商法とはいえないであろう。ロッキー・青木が「べニハナ」で成功したのも、また伊勢の赤福の台北で人気を呼んでいる中華料理屋「陶陶」も、地元の人たちがもっとも親しんでいる土地の料理で味とサービスの両方をプラスしたからである。シンガポールに行くと、商社を退職して現地でクラブを五店もひらいて大成功した日本人がいる。ご本人に案内されてその店の一軒に行ったが、銀座のクラブをもっと大規模化したもので、豪華な雰囲気も銀座の一流クラブに劣らない。違っていることといえば、(1)ホステスが人種の展覧会をやっているのではないかと思うほど、マレー人、印度人、中国人、フィリピン人、日本人、白人、とより取り見どりのバラエティに富んでいること、(2)明朗会計で、銀座に比べて安価なこと、(3)すべて現金決済で、カードはあってもツケのないこと。これなども、日本のクラブに出入りしていた日本の商社マンがシンガポールで同じことをやれば受け入れられるはずだと考えてつくったものだから、まったくのシロウト商法である。そういえば外国でサービス業を経営して成功する確率はシロウトのほうがはるかに高い。固定観念にとらわれず、現地の実情にあわせながら柔軟に対処することができるからであろう。
|