「双子の赤字」もし国防費を増税で賄えば
もし国防費を増税で賄えば、たぶん国家財政も借金の利払いで追いまくられないですんだだろう。また貿易収支もあれだけ大赤字にならず、したがって対外債務もこれほどふくれあがらずにすんだであろう。国防費の膨張した分を税金で賄っておれば、国民の可処分所得はそれだけ減るから、民間の消費はその分だけ抑制される。ところが、国債で賄われるとお金は政府に吸い上げられるが、その証書を担保にお金をつくることはいくらでもできる。お金があるのだから安心してお金を使うことができる。すでにアメリカの社会は成熟化してアメリカ人の大半が怠惰になり、生産に興味を失って消費財を輸入にたよる体制が出来上がってしまっている。信用の拡大した分だけ消費が盛んになれば、消費財の輸入はますますふえて、それが貿易赤字を加速させる。アメリカの双子の赤字は一見、別々の現象にみえるが、密接にかかわりあっていると私はみている。双子の赤字の数字がほぼ見合っているのも決して偶然ではない。
こうした環境でアメリカ人を最も大きくつまずかせたのは、国内通貨をそのまま国際的負債の支払いにあてることができたことであろう。もしドルがフィリピンのペソとか、インドネシアのルピアと同じ性質の通貨だとしたら、物を輸入しすぎた場合、自国通貨を外貨に換えて決済しなければならないから、一方的に外貨への需要がふえれば、ドルはたちまち大暴落をしてしまう。したがってアメリカ政府としては、輸入を制限して貿易収支のアンバランスを調整しなければならなくなる。ところが、アメリカ人は自分たちの住んでいる世界が世界だと思っているから、世界中で一番国際感覚が鈍い。日本では「国際化、国際化」とやかましいが、アメリカでは国際感覚が麻癖していて、よその国の通貨と自分の国の通貨の区別もできない。というより何を買ってもドルだけで間に合ってしまう。ドルは自分の国の通貨なのに、そのまま支払っても外国人が受け取ってくれるものだから、つい気やすく札ビラを切る。その結果がどうなるかについてはほとんど気にもしないのである。
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