デパートと問屋のマージンはなぜ高いのか
しかし、デパートがそのスケールとイメージの故に、商店街の小売店に対して優位に立ち、楽な商売ができたかというと、おそらくその正反対であろう。日本の消費者は必ずしも価格に敏感ではないけれども、心コロコロというように、しよっちゅう気が変る。同じことのくりかえしでは、その関心をつなぎとめることは到底できないのである。デパートのレイアウト一つ見てもわかるように、しばらく行かないと、商品の置き場さえすっかり変ってしまっている。このあいだまであった商品でも、売り上げが芳しくないとたちまちお払い箱になってしまうし、お払い箱にならないまでも、隅のほうに追いやられてしまう。反対にお客に人気があることがわかれば、売り場面積も拡げてくれるし、下にもおかぬ扱いをうける。また人を集めれば、集まった人々がついでに買い物をしてくれるので、劇場をつくっているデパートもあれば、劇場こそないが、常設の催し物会場があって、いつも美術展を開催したり、諸国物産展をひらいたりしている。私は日本人の好きなものとして「花と祭りと勲章と大売り出し」の四つをあげたことがあるが、人を集めようと思えば、この四つを二つ以上仕掛けるとか、四つとも全部、一堂に集めれば、人がドッと集まってくれる。鐘や太鼓で人々の心を浮き浮きとさせ、たとえ造花であろうと、春は桜、秋は紅葉をアーケードに飾れば、人とはそれにつられてしぜんに集まってくる。そのうえ、大売り出しとか、美人コンテストとか、ファッション・ショーが加われば、堅い財布の紐もいとも簡単にほどけてくる。安いということよりも、いい気分にしてもらえることが購買の動機になるのだから、人々をお祭り気分にさせるにはどうすればよいか、またそういう気分になったときに人々が喜んで買ってくれるものは何か、といったことを中心に商品構成をやればよいのである。だから、デパートの仕事はいかにして安い商品を消費者に提供するか、ではなくて、いかにして消費者をいい気分にさせ、心の満足を得させるかということである。そのためには自分たちでいちいち物をつくっていたのでは間に合わない。物をつくるより、お客が欲しがりそうな物を集めてきて売ったほうがお客のニーズに合う。一時期、デパートが自分たちの店に対するお客の信用を背景にして、海苔やせんべいに至るまで自社ブランドで売り出したことがあった。専門店志向がまだそれほどではなかったころは、それなりに人気を博したこともあったが、デパートが自分で海苔やせんべいの生産をしていないことはだれでも知っているから、名店街ができるようになると、デパートの自社ブランドはだれも相手にしてくれなくなった。ファッション商品の自社ブランドに至っては、却ってお客の心証を悪くし、仮にそのデパートのオリジナル商品であっても、デパートの名前がついただけで、買おうと思った人も買わなくなってしまう。したがってデパートの商品開発とは、メー力ーのように新商品をつくり出すことではなくて、よく売れる商品を外から探し出してくることである。もしくは、売れそうな商品をメー力ーに依頼してつくってもらうことである。 |