なるほど原料の輸入については、以上のような説明で何とか納得はいく。しかし、自動車、ウイスキー、ブランデー、ファッションなどの輸入品は、メー力ーの売値は為替相場が半分になってしまったのだから、当然、半値になって然るべきである。それがそうならないで、ビクとも動かないのは、日本の総代理店の手に商品がわたると、そこから直接、消費者の手にはわたらず、さきに述べた草食動物の腸のような長い長い流通経路を通っているうちに、値下がりの温もりがすっかり冷えきってしまうからである。要するに、日本の流通機構は、価格の変動に対してショック・アブソーバーの役割をはたしており、どんなショックも、石油ショックのような過激なものを除けば、流通のプロセスを通っているうちにほとんど完全に吸収されてしまうのである。こうした価格に無反応な日本の流通機構を見て、外国人はびっくり仰天してしまう。「一体、これでも自由経済と言えるのか。価格の自由調整はどこにいってしまったのか。アメリ力なら革命が起るところだ」。アメリカ人は日本の流通系統の動脈硬化ぶりに対して非を鳴らす。よその国なら石油が値下がりすれば、ガソリン代はすぐにも下げるし、電力料金も下げる。牛肉や果物の類なら次の船からでも下げる。もし日本のようにドルが半分になってしまえば、輸入品の売値も半分になってしまう。国民全体が円高の恩恵を受け、物価安を享受することになるのである。ところが、いくらドルが下がっても、輸入品も、輸入原料を使ってつくった商品も値を下げない。日用品の値が下がれば生活費が安くなり、実質、所得が増大したのと同じだけの効果がある。しかし、月給の下がることに強い抵抗を示すように、物価が下がることにも国民的な抵抗がある。そのために日本では一方向性の物価の動きしかなく、夕クシー会社がタクシー代の値上げをしたときは受けつけるが、値下げを申請しても、陸運局がそれを不許可にするといった奇妙なことが起る。日本人は世界一の高所得水準の国になったというが、世界一高い生活費を払っているために、外国人が想像するような豊かな生活をしているわけではないのである。

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