ところが、戦後のそもそもの出発が輸出依存型の産業構造であり、その延長線上でずっと仕事をしてきた関係上、日本人はそんなに急には器用に方向転換できそうもない。黒字が続いて円高になると、企業の手取りはその分だけ減少する。360円だったドルが240円になると、それだけで収入は三分の二に減ってしまう。240円だったのがさらに160円になると、そのまた三分の二に減る。それがさらに120円台にまでなったのだから、これが国難でなくて何であろう。
このトラブルを抜本的に解決しようと思えば、輸入をふやし、輸出を抑えればよい、輸出を抑えることができなければ、輸入をそれ以上にふやすだけでもよい。要するにバランスのとれる方向へ動けば、円高傾向にしぜんにストップはかかる。ところが、物をつくって売ることしか知らない日本人は、円高で手取り収入が減ると、国内市場でライバル企業と価格競争をやっているのと同じ感覚でこれに打ち勝とうとする。日本人にできることといえば、品質を一段とよくし、コストダウンをいっそう徹底させることしか考えようがないのである。
こうした場合、日本企業のチーム・ワークと一連の下請け企業群を抱え込んだ柔構造が威力を発揮する。一方において下請けの尻を叩いて納入品の価格を20%引き下げさせ、ドル建てで売る値段を20%引き上げただけで、200円のドルが120円まで下がっても損しなくなる。どうしてかというと、200円で売っていた物の原価が10%安の180円とすれば、20%引き下げたコストは144円であり、ドルが約210円に下がっても、20%値上げをすれば、144円の収入があるからである。三年も続いたドル安で、日本の企業は倒産寸前まで追い込まれたが、結果から見ると、円高は神風みたいなもので、130円台でも業績を回復することができるようになり、抜群の国際競争力を持つようになった。
しかし、こうした生産者的発想に片寄った対策では抜本的な解決につながらないことはいうまでもない。もし130円でもちゃんとやっていけるほどのコストダウンに成功し、かつ依然として黒字基調が続けば、アンバランスを是正するためにさらにドルを下げなければならないであろう。今のところドルは強勢に転じ、為替市場は一時、小康を保っているが、アメリカの輸入赤字が依然として続き、日本の輸出が一向に減らないとすれば、日本からの輸入がとまって、バランスがとれるようになるまでドル安円高は続くものと考えなければならない。コストダウンだけによって為替相場に挑戦することは、問題の抜本的解決につながらないのである。
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