企業も人も借金と財テクに走る
しかし、一番最初のスタートのときに、経済界は借金によって経営する方法を選び、一般大衆は毎日の収入のなかから節約をしてお金を銀行に運び、銀行はこれらの零細な預金をプールして企業に貸す習慣を身につけてしまったので、借金経営はそのまま日本の社会に定着してしまった。これだけ金持ちになったら、「借金経営は危ない」と警告を発する人はもはや見当らない。会社の大半は充分な含み資産をもっているし、企業としての基礎もしっかりできあがっている。世界中に顧客をもち、安定した業績もあがるようになっている。借りているお金を返そうと思えば、無借金になることのできる企業だって多いに違いない。しかし、お金を返されたのでは困るのは銀行のほうで、企業がお金を返しにくると、「今度、お金の必要が起ったときは責任がもてません」と脅迫めいたことを言ったり、「そんなことはおっしゃらずに、こちらの立場も少しは考えてくださいよ」と哀願したりする。これでは借金経営が改まるわけでもなく、銀行や保険会社から直接融資を受ける比重は減ったが、社債や転換社債を発行して、上場企業が自分たちで起債をするようになり、銀行から借り入れるよりずっと低い利率でお金の調達ができるようになった。
社債を株式に転換する場合でも、株価のうんと高い銘柄では、かなり高い時価で転換されるから、一株の額面五○円の株を一○○○円、二○○○円の時価で発行したのと同じ結果になる。仮に一株あたり二○%の配当をしたとしても、額面の五○円に対する二○%だから、年問一○円にすぎない。払込金一○○○円に対して一○円ならわずか一%にすぎないから、集めた資金をそのまま銀行の定期預金にしておいても配当金が払えなくなることはないだろう。
したがって、今後、転換社債の発行によって、自己資本比率がうんと改善される可能性もある。庶民の貯蓄のなかで銀行預金の比率が低まり、その分だけ株式への直接投資がふえることも考えられる。そういう場合でも、企業のコストは借入金のほうが自己資金より安いことに変りはないから、借入れ比率が急速に改まることはないだろう。どうにもお金が余ったら、借入金は減らさないまま、財テクに走ることも考えられるから、借金経営という日本企業の性格は今後もそのまま持続されるに違いない。 |