土地のキャッチボールをしながら生産を拡大していく日本経済のシステム
戦後からこの方、日本の産業界と銀行の関係は、こうした土地の値上がりによって、スムーズにすすみ、生産の増強に成功しただけでなく、企業の財産をふやしてもきた。坪2000円で買った土地が、一万円になったときは、喜ぶ前にびっくりしたものだが、やがて10万円になり、場所次第では、100万円にもなっている。そのたびに、資産価値があがり、担保価値もあがったので、それを担保にすれば、また次の資金を借りることができた。時には経営よろしきを得ず、にっちもさっちも行かなくなったこともあったが、そういう場合でも、ちよっと土地を処分すれば、何とかピンチを切り抜けられるようになった。
しかし、こうしたキャッチ・ボールによって、財産が増えたといって日本人は喜んでいるが、百坪の土地は昔と同じ百坪だし、日本人が豊かになったということではない。はたしてこんな士地の値上がりで単純に喜んでいてもよいものだろうか。そういう現象に不信感を抱いて、成長経済に疑問を投げかけたのが笠信太郎氏の『"花見酒"の経済」であった。
笠さんは、成長経済下の土地の値上がりを、熊さん、八さんの花見酒にたとえた。二人で屋台を担いで、まず熊さんが甘酒を飲みたくなり、小銭を八さんに渡して、甘酒を飲む。しばらくすると、今度は八さんが甘酒を飲みたくなって、さっき熊さんから渡された小銭を熊さんに渡して、今度は自分が甘酒を飲む。二人でそういうことをくりかえしていると、お金が儲かったつもりでほろ酔い加減になっているが、いつしか甘酒は底をつき、懐にはお金も残っていない。
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