借金経営だから減価償却不足は起らない
金本位制から紙幣発行による紙本位制の経済へ
私は紙本位制という言葉を使ったが、紙本位制という言葉があるわけではない。人類は長いあいだ、黄金を貨幣として使用してきた。最初のころは、多分、延べ棒とか、粗金を重量でいちいち計ったに違いない。しかし、貴金属には純度の問題もあるし、不定形でその度に秤りにかけたり、含有量の測定をしなければならない。そういうわずらわしさを避けるために、やがて一定の含有量を保証された金貨が鋳造され、それが通用するようになった。しかし、金貨を持ち歩いたり、取引のたびに運搬して授受したりするのは何かと不便を生じたので、銀行が金貨の代りに紙幣を発行して支払い手段に充てるようになった。

紙幣が発行されるようになると、銀行の使用を背景に紙幣だけで物が買えるようになり、おかげで取引もスムーズに行われるようになったが、取引の活発化した分だけ物価もあがり、また景気も刺激されて、好況不況の振頻度が以前よりずっと大きくなった。

アダム・スミスの『国富論』以後の経営学が景気変動を取り扱うようになったのは、産業全体が発展したこともあるが、信用の創造によって、好況と不況の振幅度が大きくなった結果でもある。そうした信用創造の結果は、産業界の発展を促す刺激となったが、同時に通貨として黄金を通貨の座から引きおろすことにもなった。

一九二九年の大恐慌によって、金本位制を離脱した通貨制度は、何回にも及ぶ復活への試みにもかかわらず、結局、二度と再び陽の目を見なかった。黄金という有限の物質を通貨として採用することは、ふくれあがった取引を媒介するには不充分すぎたし、またわれわれの生活を豊かにする富は、黄金によってではなく労働によって生産されるものであることは、もはやだれにもはっきりとしているとおりだから、黄金のはたす役割は第一線から大きく後退してしまったのである。

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