借金による資金調達のほうが楽な理由
日本の企業家たちはやる気充分だったが、資金不足は国全体の基調であった。お金がなければ、お金を調達すればよいが、調達の方法は二つしかない。一つは自己資本の充実、すなわち増資であり、もう一つは借入れを起こすことである。
昭和三十五年の池田勇人内閣以降、いわゆる高度成長期に入ると、日本の企業の資金需要は一段と強くなった。企業は増資に継ぐ増資をくりかえし、借入れに継ぐ借入れの拡大をくりかえしたが、どちらかと言えば借入れにより熱心であった。どうしてかというと、自己資金のコストのほうが借入金のコストより高くついたからである。
自己資金のほうがコストが高くつくというと奇妙に聞こえるが、日本の企業にとって自己資金とは、資本金と内部留保金のことである。もし資本家と経営者が同一人物であれば、自己資本は自己資本で、コストがかかるとか、かからないといった概念はあり得ない。ところが、戦後の日本は財閥が解体されて、資本家が絶滅してしまい、わずかに関連事業法人と大衆資本家によって株主が構成されるようになった。これらの株主と実際に経営の任にあたっている社員あがりの経営者は別々の存在だから、会社の経営者にしてみれば、株主からお金を集め、それに配当金を払うのも経費なら、銀行から資金を借りて金利を払らうのも経費であった。
日本では、ご承知のように、借入金の金利は全額が経費として認められている。だから、歩積み両建てを強要されて実質九%、十%の金利を支払わされたとしても、それは経費として利益から差し引かれる。ところが、株主に対する配当金は経費とみなされず、利益のなかから法人諸税を差し引いた残りのなかから支払われる。日本の法人税は、時代によって多少の出入りはあるが、国税、地方税あわせて五十%から六十%に及ぶ。同族会社に対する留保金課税も含めると、高収益会社に対する税率は八十五%に及ぶこともある。
仮に六十%の法人税を払った残りから十円の配当をしたとすると、そのためには二十五円稼がなければならない。二十円の配当をしようと思えば、五十円稼いで三十円の税金を払った残りでやっと配当ができる。これに対して銀行からの借入金は十円なら十円、経費としてそっくりそのまま計上できる。経営の担当者にしてみれば、配当金のコストは、同じ金額の惜入金に対して二・五倍もコスト高になるから、どうしても借入金に頼るようになる。あまりにも借入金が巨大化して、融資先銀行から「少し自己資本を充実したらいかがですか」と促されてから、やっと重い腰をあげて、渋々と、増資に踏み切ったのである。
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