| 第953回甘い酢飯が流行っているらしい
 最近「鮨」、「寿司」、「スシ」というものがよくわからなくなってきました。
 こう書き出すと、巷では
 「友里はやっぱり味も何もわからず悪口言っているだけ」
 と鬼の首とったように攻めたてられるかもしれませんが、
 「スシの味がわからない」のではありません。
 人によって、かなりスシに対する嗜好が異なる、
 またその嗜好が変化することがわかったのです。
 先日のコラムにも書きましたが、この間まで「鮨屋」は握り主体で、酢、塩の利いた酢飯が王道であったと思います。
 一昨年末デビューした来栖けい氏が注目を浴びたとき、
 彼の一押しの寿司屋「入船」の酢飯に対して、
 マスヒロさんが雑誌で
 「酢飯が緩すぎてこれは江戸前鮨ではない」
 と批判をしたのは記憶に新しい。
 赤酢を使うかは別にして、
 酢、塩がきっちり主張した酢飯でなければ鮨ではない、
 ゆるい酢飯の握りは街場の寿司だと。
 しかし、最近結構すし屋巡りをして気づいたのですが、評判のよい店、有名な店、マスコミに露出している店でも、
 必ずしも酢や塩の利いた酢飯を出していない。
 例を挙げると、浅草の「松波」。
 世間では典型的な江戸前鮨屋で通っているようですが、
 ここの酢飯はかなり甘い。
 主人がいうところ、「甘めの方が飽きずに食べられる」。
 普通は、甘さは満腹感をもたらすものだと思っていますので、
 酒飲みの私には驚きの発言でした。
 実際は、酢飯を甘くすることによって、
 早めに満腹感を客にもたらし、
 お任せの貫数を減らしているのではないかとの
 うがった見方をしてしまいそうです。
 最近の鮨屋としては、六本木の「吉武」、西麻布の「きたむら」で、酢飯にかなりの甘さを感じました。いずれも主人に確認しましたが、
 酢飯に砂糖類を入れているとのこと。
 ツマミ主体の店の出現に加えて、
 酢や塩ではなく甘い酢飯の特徴を持つ鮨屋の台頭、
 マスヒロさんの主張に反する鮨屋がここにも出てきたのです。
 スシは人によってかなり嗜好が異なる食べ物ではないでしょうか。新鮮タネ系の寿司屋を好む人、
 江戸前仕事と言われる鮨屋を好む人などなど。
 まったく別物だと思うのですが、
 「美登利寿司」の行列を見るごとに、
 スシに対する嗜好は様々である、
 つまり「これが本物のスシだ」という
 きっちりした形はないのではないかと思うのです。
 そうでなければ、
 銀座だけで700店舗も存在できるはずがありません。
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